キュラソー

百花のキュラソーのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
2.9
『ファーザー』を思わせるような、認知症の母親視点のループや幻覚や記憶飛びの描写は面白く観たが、これを中心に多用される長回しで成果が上がっているのは半分あるかどうかといったところ。震災後の荒れ果てた街を不安定な足取りで歩く母親を後ろからずっとついていくシーンなど、背景のぼかし具合などからさまざまな事情を察するが、別の撮り方があったのではないかと思わされる。長回しの際に引きのショットが少なく、必要以上に鈍重さと息苦しさを感じさせる点もマイナス。全体的に脚本に寄り添いすぎていて、映画的な工夫を自粛しているような印象を受けてしまう。長回し以外のシーンを見てみると、菅田将暉が母親を探すシーンなどは、幼少期のそれとモンタージュさせることで画面に焦燥感と同時に疾走感を生みだしていたのを思い出そう。

また、長回しを多用するという野心に技術が追いついていないとも感じる。特に、屋内でカメラが動き出す前のブレはどうにかしてほしかった。実際の家でロケーションする場合は空間的な制約があり、動線の確保のためにも機材をそこまで設置できないのも影響しているだろうが、観客としては贅沢を言いたくなる。

他にも色々気になるところはあったが、記憶を徐々に無くしていく母親と、母親から1年間捨てられたトラウマから最良の記憶を抑圧してしまっている子供とのすれ違いを巡る話は見応えがあり十分楽しんだ。脚本として十分なものがあるなら、映画的な工夫を取り入れ、多少は物語に抗うように撮っても、魅力は損なわれないように思う。
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