現れる小林

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの現れる小林のレビュー・感想・評価

4.5
かなりの良作だった。脚本、演出、映像表現など全てのセンスがいい(変な下ネタが途中で突然出てくるとこ以外)

カオスを映像的に表現したシーンが登場する作品の中でもずば抜けて描写力とアイデアに富んでいる。
日本のアニメ「パプリカ」もその点では肩を並べる作品である。あの作品には得体の知れない不安感や薄気味悪さのようなものが絶えず充満しており(褒めている)、俗に言う「インフルエンザの時に見る夢」的混沌を味わえるのに対し、この映画は基本的にシュールなコメディタッチに描かれており、映画館でも観客の笑い声が弾けていた。ただやはり時折 カオスに吸い込まれて精神に異常をきたすことに対する恐怖が顔を覗かせる場面もあり、コメディと不安感のバランス感覚が巧みだった。パプリカとはまた全く違った魅力を感じることができた。

そして何より、バースジャンプ(人生の分岐の際に選ばなかった方の世界線に、事後的に飛び込む行為)の方法が本当に画期的。ネタバレなので絶対に言わないが、これを思いついた時点でもう観客の心を掴むことに半分成功したと言って良いだろう。猛スピードで話が展開する中で本作のマルチバース的世界観の全容を理解した時は製作者の天才さに心底感動した。
画期的な世界観ではあるが、観ていても マトリックスの説明シーンで感じるような、哲学書を読んでいるかのような難解さはなく、あくまで映像としてすんなり頭に入ってくる点も素晴らしく、美しい。このレビュー文の冗長な文体が恥ずかしくなるほど洗練されている。

最後に、本当に本当に全く関係ないのだが、今ハマっている「ゴートシミュレーター3」というヤギのゲームが、この映画で描かれている センスの良い混沌に少しだけ近いと思ったのでオススメしておく。マルチバースとかでは全然ないが、何にでもなれて何でもできるという点がちょっと重なる。