MasaichiYaguchi

ティルのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
3.9
1950年代アメリカで、アフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった実在の事件「エメット・ティル殺害事件」を劇映画化した本作は、母子の絆を通し、未だにアメリカに蔓延る人種問題をより浮き彫りにしていく。
1955年のイリノイ州シカゴ、夫を戦争で亡くしたメイミー・ティルは、空軍で唯一の黒人女性職員として働きながら、14歳の息子エメットと平穏に暮らしていた。
或る日、エメットは初めて生まれ故郷を離れ、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れる。
しかし彼は飲食雑貨店で白人女性キャロリンに向けて口笛を吹いたことで白人の怒りを買い、8月28日、白人集団に拉致されて凄惨なリンチの末に殺されてしまう。
息子の変わり果てた姿と対面したメイミーは、この陰惨な事件を世間に知らしめるべく、或る大胆な行動を起こす。
2012年の「トレイヴォン・マーティン射殺事件」、2020年の「ジョージ・フロイド殺害事件」等、今なお世界中で痛ましい人種差別による事件が頻発している。
キング牧師をはじめ、公民権運動に関わる人々の物語を描いた映画は数多く公開されているが、「エメット・ティル殺害事件」に関しては発生から68年を経て劇映画化され、1人の母親の愛と正義の物語がやっと日の目を見たことに何とも言えない感慨を覚える。