Rita

TAR/ターのRitaのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8
狂気の旋律を奏でる。

ドイツの有名オーケストラで史上初の女性首席指揮者となったリディア・ター。しかし、その成功と名誉の裏にはさまざまな精神的困難や陰謀が隠されていた。

静かなのに落ち着かない空気が漂う。徐々に、リディアの"時間"は狂い始めていき、作品全体が楽譜のようなテンポで進みひとつのアンサンブルになっているということに気がついた。過激でどこか生々しい描写が私とはかけ離れた遠い世界なのに凄くリアルに感じた。

非日常的で現実的な映画だった。リディアの視点で話がゆっくりと進んでいくのですが、SNSからの拡散、教え子との関係性などの錆びついた疑惑が公に出ると同時に急激に速くなる。頭のおかしいおっさんみたいなことをケイト・ブランシェットに演じさせるのはむしろプラスだった。人間こそが狂気なのである。

ジェンダーについて触れていましたが男女関係なくリディアは一定の人間の目安というか、性別はどちらとも言える存在でした。彼女が夜中に何度も些細な音に睡眠を邪魔されている場面でとても共感した。笑

ケイト・ブランシェットを堪能できる映画。可哀想な人でもあり、完全におっさんです。マッサージ店で自分がしてきた事に嫌悪感を感じたのか嘔吐するリディア。あのシーンから人生の分岐点に立たされていたんだと思う。

最終的に指揮者への道を再出発したリディアだが、ラストは皮肉なコメディにも見えるし原点から立ち直るシーンにも見える。どんなにすごい才能があっても人としてのモラルが備わってない人は叩かれてしまう。ひとつの出来事で人生は一変してしまうけどそれも自分と向き合うひとつの手段なのかも知れない。
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