劇伴なしだが拘られた音響、16mmフィルムで撮影された映像がとても綺麗。聴覚障害を持つプロボクサーが主人公で、耳の聞こえないが経験する日常生活の困難や、マスクにより唇の動きが読めないといったコロナ禍特有のものまで、批判が多かったドライブ・マイ・カーとは違ってこちらは丁寧に聴覚障害者が描かれている。動作の反復やフレーム内フレームのショットは小津(その裏に蓮實?)の系譜を感じる。
物語によって人が動くのではなく、自分と他者との間に起こる触発、感情の動きによって人が動く。だから、この映画には終わりがない。最後のカットまで何かが起こる出来事の途上に満ちている。