しんちゃん

ケイコ 目を澄ませてのしんちゃんのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
〜静かな世界に響くミット音は孤高の女子プロボクサーの心音なのか?〜
ひたすらに静かに淡々と進むストーリー。
聾者である主人公の感覚を反映しているのは容易にわかります。しかしストーリーは実は意外に波乱もあります。
彼女の試合が前半と後半に1回ずつ、ジムの会長(三浦友和)の急病やジムの閉鎖など。でもそんな事件を事件と感じさせない静かな展開です。
またヒロインの心情も揺れ動きます。
「いつまでやるの?」という母親の言葉、ジムの閉鎖を知り、モチベーションが下がる日々も。
最初はハンディを持ったヒロインの鬱屈や孤高の感情とその爆発である壮絶なファイトがストーリーの中心になるかと思っていましたが、実は意外に穏やかで温かい環境の中で若々しく伸びやかに人生を送るヒロインが見えてきます。
心配性の母親、呑気な弟と陽気なその彼女、父親のような会長としっかり者のその妻、そして頼りになるジムの先輩たち。
またオシャレなカフェで手話で明るい女子会を開くような友人たちや、熱く彼女を励ますバイト先の同僚など。
そして、いつの間にかそんないわば日常と言えるような日々がなんとも言えない愛おしく感じられてきてしまうのです。
印象に残ったミットスパーリングのリズミカルな乾いた音。後で気づいたらこの映画には、ほとんど音楽らしい音楽がありませんでした。だからこそ余計にその音か印象に残ったのかも知れません。
あまりに静かすぎる展開に、視聴直後はなんとなく物足りなさを感じましたが、後からじわじわと計算され尽くされたシナリオの良さがわかってきました。
三浦友和、仙道敦子夫婦好演。
キネマ旬報2022年度ベスト1、同主演女優賞、日本アカデミー賞主演女優賞。
しんちゃん

しんちゃん