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PLAN 75のmisoniのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
4.4
社会問題を逃げずにここまできっちり描いてくれる監督がまた登場して嬉しい。
脚本監督の早川監督この作品で初めて知った。
何より倍賞千恵子さん、彼女しかミチを演じられなかったでしょう。ミチの声に言及する部分が出てくるが、映画が始まった当初から倍賞千恵子さんの声が非常に若々しく寅さんでさくらを演じていた時の声そのままでとても驚いた。声は肉体より衰えないのだろうか。それともいつでも役を演じられるよう日頃から声帯を鍛えておられるのだろうか。歌声、電話の声。最後までしっかり意志を持ち、明瞭に受け答えする。
フィリピンからの労働者が登場するが、日本人にさえ満足な給料を支払わない企業が増えつつあるなかで何年後の日本を想定してなのかは分からないが、外国人労働者がもはや日本に来て働いてくれる未来なんて無いのでは?と思って見ていたのだが、途中から見方が変わる。ああそうか、プラン75はつまりは税金で賄われている国の政策だからいくらでも予算をつぎ込めるのだ… 誰もやりたがらない仕事だが高給が支払われるなら外国人の方もこの仕事をするのかも知れない… だけど彼女の目にはそんな日本がどう映るだろう? 
プラン75で亡くなった人の遺品を仕分ける作業をするシーン。強制収容所で亡くなり死後髪の毛や身体の油や歯ですらも総て絞り取られていったユダヤ人の事を思った。この政策で支給される見舞金は10万。緊急事態宣言の時支給されたのも10万だったな…… 私達市民の命ってそんなもんなんだ。
ミチのつましい生活のルーティーンが淡々と流れるシーンを見ていて、ただ「ミチ」その人として存在してるだけの演技ってどんなに難しいんだろうと思った。 映画Arcでは永遠の命を自分から放棄する選択をする役を演じられていて命と死に向き合う作品で立て続けに演じられてなにか凄みを感じる。倍賞千恵子さんはきっとこの役で何らかの賞を受賞されるでしょう。
ワンカットずつじっくり見せてくれ、画面全体の情報量を適度にし、よく見て感じとるように撮影されている。
踏切を多用しているが命と死の境界かなにかのメタファーだろうか?それともミチのストーリーとヒロムのストーリー、プラン75を推進する側の視点とそれを受ける人の視点のメタファーか。
あまり映画では使わないと思うが登場人物がこちらをじっと見るカットが挟まれる。ストレートに「本当にこんな未来で良いのですか」との問いかけだろう。
この映画はそう遠くない未来の話だと思っていたがそういえばミチと友人がカラオケで選ぶ曲が誰かと美空ひばりだった。
これは未来の話じゃない。プラン75が既に導入されていると仮定した「今」の話なのだ。
ラストシーンのその後は想像に委ねられたが自分は絶望的なストーリーしか想像できなくてそんな自分にも絶望した。
この制度について自分が受ける側だったらと考えたら、苦しまずに死ねるし後始末もしてくれるんだったらこんなにありがたいシステムないんじゃないかと考えたが… いろんな人の意見を聞いてみたくなる映画だった。

追記:思い出したけどミチが炊き出しに行くシーンでそこに並んでるのって老人が少なかった気がする。既に以前は炊き出しに並んでいたような老人はPLAN75を利用していったということか。あの場面でフォーカスが合っていたのは子連れの母親。そう考えると映画の時点では「75」とされているけど(65歳に引き下げと途中でなるが)、もはや年齢は関係なく年齢設定が取り払われれば社会的弱者はあの制度対象者として見られているということを暗示していると気がつき今更戦慄。
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