あくとる

NOPE/ノープのあくとるのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.7
"奇跡的大惨事"

実は初見時はレイトショーで少しウトウトしてしまったのもあって消化不良だったため、パンフレットを読み込んでからのリベンジ鑑賞。
結果2回目のほうが格段に面白かった。
(※その後家で観た3回目はさらに面白く、見るたびに良さが増している)

冒頭の聖書の引用。
ゴーディの惨劇。
そして謎の物体に対するOJたちの行動。
全てに一貫しているのは、皆が指摘しているように"見る者/見られる者"ということであり、この映画の大きなテーマである。
さらに突き詰めると、少しぼかすが自分が嫌いな映画『グレイテスト・ショーマン』へのアンチテーゼとも言える内容だと感じた。

この映画の大きな魅力はスペクタルな映像と音の絶望感にある。
謎の物体の把握しきれない巨大さや動き。
電気が止まる=音楽が止まり訪れる不気味な静寂。
どれを取っても絶望を感じさせる。

特に自分が素晴らしいと感じたのはゴーディの惨劇の映像化である。
家族バラエティ/コメディの撮影中にその緩んだ空気を一瞬で地獄へと変えたゴーディの怒り。
つい先程まで笑い声が響いていたスタジオには、グロテスクで獰猛な暴力の音だけが響き渡る。
自分が絶対に遭遇したくない事態を疑似体験させてくれたという点において、強烈に記憶に残る恐怖の名シーン。

そして名シーンはもう一つ。
ラストのある作戦、最終決戦。
映像と音楽だけで異様な高揚感と映画を"観る"という行為の面白さ、原始的感情を呼び起こすような"最高の奇跡"が起こっていた。
ついにジョーダン・ピールは言語化のできない衝動を表現するという境地に達した。
OJとエメラルドのお互いの目を手で指す仕草だけで胸が熱くなる。

(追記)20230116
デジタル配信で再鑑賞。
いつもはあまり意識したことがなかったのだが、3度目の鑑賞で本作の編集の的確さ、鋭さに驚いた。
評価4.5から4.7に変更。

-------------------------------------------------
(以下、初見時のレビュー)
傑作『Get Out』と『Us』を作り上げた天才ジョーダン・ピール監督の3作目。
今回はお得意の社会風刺ホラーにSFスリラーをツイストするという新境地。
また、初めてのIMAXカメラ撮影にも挑戦したことで、ミステリアスな予告編を観るだけでも、過去作とは比較にならないほどスケールが増した大作なのがわかる。
また、既に公開されているアメリカでは興収ランキング初登場1位。
原作のないオリジナル脚本としては2019年のタランティーノ作品『Once Upon a Time in Hollywood』以来の好記録(コロナ禍にも関わらず)という快挙を達成。
それだけ過去2作の実績でジョーダン・ピールへの信頼が業界からも世間からも高まっているということだろう。

そして見た感想ですが…。
申し訳ありませんがひとまず保留にさせてください。
というのも自分は本作の肝となる"謎の飛行体"が何を表現していたのか理解できなかったから。

空からやってきて捕食するように吸い上げる。
上の者が下の者を理不尽に搾取する社会構造?
それとも突然やってきて全てを無に帰す天災?
そして"最悪の奇跡"とは?
"チンパンジーの惨劇"を含めて、一度見ただけでは全く消化しきれない問題作。
考察が捗るタイプの映画。