シモン

NOPE/ノープのシモンのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
5.0
ジョーダンピールのユーモアセンス好きだなー
スティーブンユアンの使い方がうまい。猿のシーンも怖いはずなのに笑ってしまう…

バズり目的で撮影に奮闘するあたりが現代性を感じた。

▼ネタバレあり
エヴァの使徒とアキラのバイクのパロディいいよね〜
そしてパニック映画、西部劇のオマージュ満載

動物(人)をネタにして成り上がろうすることについて。
ジョーダンピールの答えは、“NOPE”ありえない!

OJの父親も牧場の馬を映画に出させることで生計を立てようとする。すると皮肉にも空から落ちてきたコインが右目に当たり視力を失ってやがて死んでしまう。

主人公も馬を10頭テーマパークに一時的に売り飛ばすことでお金を得ようとする。

パークの経営者のジュープも猿のゴーディーとの関係をネタにして展示を開くことで一部のファンからお金を得ようとする。

撮影監督のホルストも、動物のドキュメンタリー映像を片手間に作って生計を立てている。


この映画は、現代のポリコレを意識しすぎたあるいはポリコレに怯えたゴマスリ映画に対する批判でもあるように思える。
中国人や黒人、障害者、LGBTなどポリコレ対象や金になる人種を無闇に役者として起用して、財界や社会に胡麻を擂ろうとする。
しかし、そこで使われる役者たちはもはやお金/興行目当ての起用でしかなく、扱われ方は動物が見せ物にされるのと同然。
ファミリー向けホームコメディ番組に1人だけアジア人の子供ジュープが起用されたのもそれが理由なのだろう。どう見ても違和感しかなかった

また、人をネタにして金を稼ぐマスゴミたちへの異議も感じる。
銀ヘルメットを被ったバイクの男がそのメタファーなのかな


そこに現れるのが人知れず雲を装って空に隠れる未確認飛行生物Gジャン。
Gジャンの通る下にある通信機器や電子機器はすべて使えなくなる。
これはネットやSNS中毒の現代人に対しての警告なのか

OJとエムは、Gジャンの映像を撮って特別な機関に売り、一躍有名になることで大金を得ようと奮闘する。

撮影スタジオのフラッシュバックのシーン
OJ「馬と目を合わせないように」

レストランでGジャンのトリセツを話すシーン
OJ「目を合わせなければ食われない」

馬を扱う時も、Gジャン(未確認飛行生物)を目の前にした時も同様に、目を合わせてはいけない(見てはいけない)ことが重要になってくる。
つまり、見せ物にする側も悪いが、それを見てしまう側も同じ罪を持っているということ。

Gジャンの四角い目と風船のような胃の中がどこか昔のフィルムカメラを思わせる。
カメラに喰われていく役者たちのメタファーとしてああいう造形にしたのかもしれない。

Jean Jacket Anatomy Studyによると、四角い目を前後に移動できるようにDolly Trackという部位があるらしい…もうカメラじゃん


NOPEは、パラサイトやアンカットダイアモンド、アンダーザシルバーレイクに並ぶ「成り上がり忠告映画」と言える

ポスターで皆なぜ上を見上げるか?空にUFOが見えるからではない。それは「成り上がりたい」と思ってしまうからである。5人が上を見上げているポスター🙄をずっと見ていると、恐ろしい顔に見えてくるから試してみてほしい
決して成り上がろうと思ってはいけない。それは盲目になることと同じだから

実は上の4つの映画すべてにおいて共通する「成り上がり」のきっかけが、“最悪の奇跡”(魔法)の目撃である

“最悪の奇跡”
人はそれを目撃してしまうと興味を抱き、しまいには自分のものにしようと取り憑かれてしまう。
都市伝説、陰謀論、オカルト、お化け、UFOなどもその一つ

“最悪の奇跡”の噂を聞いて面白がってしまう典型的な現代の若者が、エンジェルという青年。
彼はUFOや宇宙人、都市伝説に興味津々

・空から落ちてきたコインがたまたま父親の左目に命中する現場に居合わせてしまうOJ

・猿のゴーディが番組で暴れ狂う中、一つの青い靴が縦に立ち続けるのを見てしまう小さきジュープ

・未確認飛行生物という不可能(ありえないもの)を見てしまう撮影監督や主人公の仲間たち

皆、“最悪の奇跡”(魔法)を目撃してしまったがために、その不思議さ(ありえなさ)に取り憑かれ、しまいには金に目が眩んでしまう有様。

最後の館内放送のカウボーイ&カウガールを若者たちと捉えると、SNS世代の若者に向けての忠告なのかな。
放送「カウボーイ&カウガール。夕日と共に去る時だ。そうだよ、楽しかったかな。もう閉園時間だ。ここにはいられないよ。また来てね。それまでは皆元気で」


映画の中で様々なNo/Nopeが使われているのが興味深い。

・OJが初めてGジャンを一瞬目撃した直後のシーン
OJ「”最悪の奇跡”って?説明つくか?」
エム「いいえ(No)」
OJ「納得いかないね。飛行機の部品で親父が死ぬか?」
これが意味するのは、悪いことに対する奇跡のような言葉が存在しないということなのか。つまりは人は悪いことには目を向けない。誹謗中傷など悪い行いに対してルール(規制)を設けないでやりたい放題であるメディア社会に対してのNO?

・夜に子供たちが宇宙人の格好をして現れ、それをOJが撮影しようかと迷うシーン
OJ「ムリだ 俺は抜ける(Nope. Mm-mmm. Nope. I’m out.)冗談じゃねえ(Fuck this shit.)いいぞ、いいぞ(Okay Okay)」
これは、人をネタに撮影して大衆の見せ物にしてもいいのかどうかという問いに対してのNOPE、そしていいぞいいぞと容認してしまう悪い人たちのOKAY
I’m outは、クソみたいなゴマスリ映画作りからは抜けるという意味かな

・Gジャンが初めて皆の前に姿を現して空に帰った直後のシーン
エム「行くよ」
OJ「どこに?」
エム「知らないけど、ここ以外のどこかよ」
OJ「今夜は来ない」
エム「知るか。嫌よ 絶対 ムリ(No. No. No.)」
これは、金に目が眩んでリスクをまるで考えないメディア社会に対してのNO?

・過去の伝説のホームコメディ番組で、猿の誕生日に腕時計を買った父親に家族が呆れるシーン
母親役「宇宙ロケットを飛ばせる人がこんなプレゼントを選ぶ?−ありえない(Nope)」
これの意味は、SpaceXでロケットを作るイーロンマスクがTwitterを買収してメディア業界に進出?ありえない!のNOPE

・猿のゴーディが番組の途中で暴れるシーン
父親役「よしなさいゴーディ(No, no, no. No, no, no. Gordy. No. No!)落ち着け 来るな そこに座れ!(Get down! Down! Down! You sit!)」
これは、動物(人)をしつける(言うことを聞かせる)時に使う否定的なNO
おおよそ多くのハリウッド映画監督はプロデューサーの言いなりになって、好きでもないゴマスリ映画を作らされているのだろう


全てのNo/Nopeが皮肉的に思えておもしろい
シモン

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