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“それ”がいる森のTKEのレビュー・感想・評価

“それ”がいる森(2022年製作の映画)
2.2
中田秀夫監督は前前作の「事故物件」では俳優を無駄使いしながらもB級映画としてはそれなりの作品を仕上げたものの、前作「嘘喰い」では原作レイプし、個人的評価ダダ下がりだったのを挽回できるのか?!と思いましたが全くダメでした。

ホラー好きだしポスターも予告編も怖そうだし、同じようなタイトルの「来る」はメチャクチャ名作(個人的判定)だったので期待して見た結果、大惨敗しました。

どうした、中田秀夫っ!…いや、冷静に考えたら脚本が悪いのか?

いつもはネタバレ防止でネタバレボタン押してますが、同じような被害者が出ないためにもあえてこのまま書きます。


まず大前提として「ジャパニーズホラー」ではないです。「SFホラー」映画です。宇宙人です。
予告編見ると「未知の恐怖」と書かれてますから間違ってはいない…間違ってないけどさ、予告詐欺過ぎませんか…(脱力)


義父との仕事の兼ね合いがうまくいかず、知り合いの元でミカン農家を営むために東京から単身、福島県某村へやってきた田中淳一(相葉雅紀)。

3年の月日を重ね、ようやく出荷できるほどのミカンが実った頃、息子の和也(上原剣心)が中学受験の為大好きなサッカーを辞めさせられ、母親の爽子の元を飛び出し家出をしてくる。

仕事に子育てと精神的にも気疲れしていた爽子のためにも和也をしばらく引き取ることにした淳一だったが、3年の月日は2人の溝を深めていたのだった。

都会から来たということで村の同級生に疎まれる和也だったか、唯一迎え入れてくれた友人と立入禁止である天源森へと向かうと、そこで巨大な銀色の物体を発見、さらに友人が何者かに連れ去られてしまうのだった。


タイトルにある「それ」はズバリ宇宙人です。冒頭でバレバレでしたけど。

あまり映画に関しては苦言を呈することは無いのですが、今作に関しては酷すぎました。

まず、取り扱うネタはいいと思います。未知だし、本当にいるかもしれないし、確かに遭遇したら怖いだろうし…。

ただ、他が全てをぶち壊しにきてます。


まず演技について。

ホラーというのは未知に対する恐怖であり、それは単に幽霊とか宇宙人とかゾンビ相手だけではなく、暗闇だったり高所だったり、雷だったり地震だったり「死を連想するもの」「自分では太刀打ちできないもの」に対する原始的なものがあると考えているんですが、まあ見ていて登場人物から恐怖を感じない。

なんとなく表面上の「ビックリしてる感」は伝わるのですが、見ていて全然怖くない。

これは演者の問題もあるとは思いますが、何よりそれを表現できる技量がない人物をキャスティングしたことに問題があると思いました。
ぶっちゃけ、脇役の警官や先生方から感じた恐怖感のほうが全然凄かったです。

日常パートについては見るに耐えないくらいキツかったです。


演出にいて。

もう、最初からダメダメ感満載だったのですが、無駄な場面と場面に合わない音楽が多すぎます。
宇宙人に襲われるところは特に顕著で「ゲームじゃねぇんだよ」とツッコみたくなるくらいの音楽が流れますが、そもそも動きに合ってなさすぎるんだよなぁ…。

エイリアンやプレデター、日本で言えば青鬼とかテケテケのように「動」を感じるクリーチャーには合うんでしょうが、今作は人間がアタフタしてるだけで宇宙人サイドはスライド移動してくるんですよ。

こんなんコメディじゃないですか!?

宇宙人の造形もテンプレのグレイ像で目新しいものも特に無いですし、何よりやたらプルプル震えるのは何?


設定についてもブレブレというかなんというか、まあ相手は未知の存在なので仕方がないかもしれませんけど。

まず、宇宙人は大人は殺し、子供は生け捕りにします。
それがなんで?ということが作中中盤〜終盤にかけて判明するのですが、どうやら宇宙人は子供を体内に取り込むことで分裂・増殖を繰り返しているのでした。

…じゃあ、なんで大人は殺されてるの?

子供をさらうために邪魔してきた大人を殺す…というなら整合性が取れているのですが、問答無用で皆殺しですし、そもそもなんで子供じゃないと分裂できないのかも不明のまま彼らは宇宙の彼方へと去ってしまいました。

未知だからその辺不明でも仕方がないよね!じゃねぇんだよ!SFなんだから、そこは嘘っぽくていいから検証してくれよ!

子供達も冒険活劇に出てくるような子たちばかりで完全に出演する映画を間違ってます。それが作品の質を高めるかというとそんなことはありません。

行くなってところにはいくし、逃げろって言われてんのに勝手にはぐれるし、何があった?って聞かれても答えないし、かと言って妙な正義感というか団結力はあって、見ていて本当にイライラしました。

ミカンを掴んだ宇宙人の体液が枝についてたり(冒頭もそうだけど、そもそもピンポイントで体液が垂れてるのは何?)、人体を貫き、鉄板を破壊する宇宙人の腕に木の板で立ち向かったり、宇宙人の弱点に気づいて持ち出した武器がショボかったり(なぜ別で刃物なりを装備しないのか)、見ていて「それはないだろ…」とツッコミが止まりませんでした。


総じて酷いです。

これが「低予算作品です」「無名の演者使ってますがクオリティ重視です」「今までにない斬新な設定です」「全力でB級映画作ります」とかで「まあ、ここまで頑張ったなら多少の粗は仕方がないよね」となるんですが、それなりの予算と監督と演者使って、このクオリティだと擁護のしようがないです。

久しぶりに個人的ワーストを更新したかもしれません。

中田秀夫監督いわく、事故物件のヒットや外国人の映画の見方、反応を見て今作にチャレンジした…ということらしいのですが、迷走しすぎては?

日本ホラーのいいところ、洋画ホラーのいいところ、どちらも活かせず・融合できず…といった印象です。

この虚無感は見た人しか共感できないと思うので見て欲しい気持ちはあるのですが、ネタにもならなそうなのでお勧めも出来ない…。

唯一良かったのは子供に対しても容赦なかったこと。さらわれた子どもたちは無事でした!なんて安易な展開にならず、老若男女、別け隔てなく無慈悲な展開にしたのは恐怖感を煽るという点では正解だったと思います。


クリエイティブな仕事に尊敬の念しかありませんが、お金がかかってる以上、最低ラインの作品は作り上げてほしいです。これが自主制作だったら何も言いませんけど。

それでも、中田秀夫監督には期待しております!また日本中、世界中を怖がらせるようなホラー映画を作って下さいっ!
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