かたゆき

きっと地上には満天の星のかたゆきのレビュー・感想・評価

きっと地上には満天の星(2020年製作の映画)
4.0
彼女の名は、リトル。
女手一つで自分を育ててくれる母親とニューヨークに暮らす、何処にでもいるような5歳の女の子だ。
ただ、彼女が住む場所は普通の人とはちょっと違う。そこはなんと、現在運行中の地下鉄のさらに下に掘られた廃トンネルの片隅。
行政の手の及ばないそんな地下深くで暮らしてきたリトルは当然、これまで地上の光を見たこともなかった――。
彼女の母ニッキーは麻薬に溺れる売春婦。
愛娘のためになんとかして生活を立て直そうともがくのだが、麻薬がらみのトラブルのせいで何もかも上手くいかない。
運悪く、それまでほったらかしだったこの廃トンネルを何とかしようと行政が動き出し、彼女たち住民は突然立ち退きを迫られてしまう。
このままでは自分は逮捕され、大切な一人娘のリトルは施設に保護されてしまうだろう。
八方塞がりに陥ってしまったニッキーは、リトルを連れ地上に出てくるのだった。
リトルは、そこで初めて光に満ち溢れた地上の世界を目にするのだった……。
ニューヨークに実在した地下生活者たちをモデルに、ずっと地下の暗闇の中で育てられた5歳の少女とその母親の逃避行を淡々と描いたヒューマン・ドラマ。

結論を言うと、なんか凄く良かったです、これ。
ほぼ、ホームレスと変わらない生活を送っている少女と麻薬中毒の母親がその日の食事と泊まる場所を求めて駆けずりまわるという、もう観れば観るほど気が滅入ってくるお話なのですが、とにかくこの主人公となる少女が魅力的!
地下の暗闇でただひたすら母親の帰りを待つ健気な姿、無邪気に笑いながら母親に身体を洗ってもらうシーン、隣人のホームレスに計算を教えてもらう時の好奇心満々の表情……。
どれもがキラキラと輝くような魅力を放っていて、この悲惨な物語を明るく照らし出すことに成功している。
そんな彼女が行政の手を逃れて初めて地上に出るシーンは、彼女の不安感や焦燥が生々しく伝わってきて胸が締め付けられそうでした。

その後に彼女たち親子が辿る運命。
優しく接してくれた売春宿の元締めが実はロリコン野郎にこの少女を高値で売りつけようとしてたり、食事を分けてくれたホテルのコックが何も事情を聞かずすぐに警察に電話しようとしたりと、あくまでリアルでそこがまた辛い。
「きっとこれはどう転んでも幸せな結末にならないんだろうな」と思ったら、まさかの母親の最後の決断。
余りに辛く、哀しい母親のその結論に僕は思わず涙してしまいました。
恐らく母親はこのまま麻薬を止められずボロボロになって死んでゆくのだろうし、5歳のリトルは「ぼんやりと憶えているあの人がきっと母親だったんだろうな」との想いを抱きながら施設で独り育ってゆくのだろう。
きっとお互いもう会うこともなく、それぞれの人生を歩んでゆく……。
それでも僕はこの先、2人が再会して幸せな人生を歩んでほしいと願わずにはいられませんでした。

小品ながら、心に深く突き刺さる傑作だと思います。
かたゆき

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