ヒラツカ

Pearl パールのヒラツカのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
3.8
家の近くの映画館では軒並み終了してたので、わざわざ六本木のTOHOシネマズまで出向いて鑑賞。そこで気になったのが、明らかに小学校低学年の女の子とそのお母さんという組み合わせのペアが、平然と客席に座っていたことだ。へえー、ずいぶんと大胆不敵で悪趣味な母娘だよな、あれ?でも映倫がR15だしいいのかなあ、と思っていたが、予告編が終わって映画が始まったら、「あっ」となってすごすごと出ていったので、『コナン』とかを観に来たところ、ただ単にスクリーンを間違えただけだったみたい。でもこの作品、鮮やかなテクニカラーによるポップでキッチュな画作りのせいで、冒頭のガチョウさんのシーンを「まあそんなこともあるか」とうっかり見過ごしちゃえば、その後、カカシのシーンあたりまでは、本作が実はとち狂った映画だとはバレずに、ほんとうに田舎の娘がスターを目指す物語なんだと勘違いさせれる可能性あるんじゃないかな。
映画としてはシンプルなサイコものであり、ぱっと見ただけだと、抑圧された家庭やコミュニティのせいでパールというモンスターが産まれてしまった、という構図に見えるけど、よく考えてみるとこの人、どこかでぷつんと切れてしまったわけではなくて、もともとが異常なほど膨らみすぎた自尊心を持ち合わせているのに、他者に対しても度を超えて執着もするという、ナチュラル・ボーン・ヘンな人、だったんじゃないかな。母ちゃんは燃やしたわけではなくてたまたま火がついちゃっただけだし、その後も愛情を持って一緒に食卓を囲むわけなので、彼女にとって両親はそこまで「自由を妨げる障害」ではなく、だからこそ倒したときのカタルシスも薄かった。また、映写技師や義理の妹の前で「私のこと怖いの?」と困り顔で言い始める彼女がとっても良くって、言ってみれば、メンヘラ彼女に駄々をこねられているみたいな、出口のないひやひやする不快感で、ホラー映画の演出としては新しいアプローチだなあと思った。
スペイン風邪とコロナを照応させたのはなんか意味あったのかな。また、オーディションのミュージカルシーンのモチーフを第一次世界大戦にしてはいたが、戦争というものに対しての反対なのか賛成なのか、とくに映画としての態度を表すことがなく、なんだかどうしても社会と関わりに行かないところがあるんだよな。これがタイ・ウェストの性向なのか、あえてその要素を隠し持ってるのかわからんけど、次作の『MaXXXine』でそのへんの奥の手が爆発したら楽しいですよね。
前作の、80年代スラッシャーのパスティーシュだった『X』ではラストの一言に「一本!」であったが、今回のラストもあんまり観たことない感じでよかったですね。ミア・ゴス、これはもう完全に売れるわ。