odyss

夜霧よ今夜も有難うのodyssのレビュー・感想・評価

夜霧よ今夜も有難う(1967年製作の映画)
3.5
【「カサブランカ」日本版】

DVDジャケットにも日活版「カサブランカ」と書かれているほどで、筋書きは『カサブランカ』そっくりです。パクリというより、意図的に日本版の『カサブランカ』を作ろうとしたものと見た方がいいでしょう。

無論『カサブランカ』そのものとは違うところが多々あります。『カサブランカ』はナチス・ドイツによるフランス占領という政治的に緊迫した情勢下での物語ですが、戦後20年をへて経済大国への道を歩み始めていた日本国内にそうした要素はありません。

そのため、イングリット・バーグマンならぬ浅丘ルリ子が逃亡を共にするのは、某東南アジアの政治活動家(二谷英明)という設定になっています。東南アジアが今もなお政治的に安定していないことを考えればこうした設定には一定の有効性がありますが、しかし日本人にとってどの程度焦眉の問題と感じられるかということになると、切迫感が薄いことは否定できません。

しかし、代わりにこの映画の核になっているのは、テーマ曲「夜霧よ今夜も有難う」がそうであるように、しっとりしたムードで全体を包み込むような作り方です。映像がそうしたムードを盛り上げるように美しく撮られていますし、かつては船長で、浅丘ルリ子と結婚するはずが、彼女の失踪によって陸に上がりナイトクラブのマスターになっているという設定の石原裕次郎がピアノを弾きながら歌うシーンもたっぷり盛り込まれています。言うならば抒情性で、日本版の『カサブランカ』はこの抒情性を基盤としているのです。また石原や浅丘のセリフにも、キザになりそうでならないぎりぎりの工夫が凝らされており、言葉のキャッチボールを楽しむ映画としても評価できるでしょう。

浅丘ルリ子の美しさは相変わらずですし、30歳を少し出た石原裕次郎には中年の落ち着きみたいなものが出てきており、ナイトクラブのマスターらしい風格を感じさせます。やがて梶芽衣子という芸名で銀幕に頻出することになる女優が、本名の太田雅子で登場しているのも見ものでしょう。
odyss

odyss