僕はパリを舞台にする映画を好きになりがちで、その理由のひとつはパリのコンパクトさにあるのかもしれない。パリに何かを投影すれば、それが何であれコンパクトに映る。またはコンパクトに要約せざるを得ないのかもしれない。
本作では第二次世界大戦を生き抜いた老女マドレーヌの波乱に富む人生をパリを通して追体験することになる。92年間の記憶は決して楽しいものばかりではなさそうだが、タクシードライバーのシャルルとともに各所を訪れて愉快な思い出で上書きして回る。それは彼女がこの世への未練をひとつひとつ断ち切るためであるとともに、(結果論として)彼女自身の意識をシャルル(の抱える問題)へと集中させるための作業のようにも見える。
しかしてシャルルに解決策を提示することで、マドレーヌは心晴れやかに新しい世界へと旅立てたのではと想像できる。見事な幕引きだと思う。この短い時間の中で誰かが私の心からの呼び掛けに応えてくれるなら、人生ってそれほど悪くない - this bitter earth may not so bitter after all.
彼女自身がパリに留まり続けながら、シャルルに対して「旅をしなさい」と伝えた意図がなんなのかやや不可解だけど、最後ぼーっとしてて何かを見落とした可能性が否めない。
ご都合主義なのは予想通りだしオッケーです。