このレビューはネタバレを含みます
小説家・井上光晴が亡くなるまでの数年間の生き様と嘘を切り取ったドキュメンタリー。
あの埴谷雄高が動いてて「3割バッター」なんて言葉を発してるのを見れただけでも鑑賞する価値があった。
肝心の井上光晴を読んでないので見当はずれの感想かもしれないけど「自分に嘘をつかないためにつく嘘」はあることに気づかせてもらえた気がするし、ただでさえ虚構を作りにくくなった今の時代に、いつのまにか嘘をつくのが異常に苦手になった自分でも、生み出せる虚構はあるかもしれないとある種勇気のようなものももらえてしまった。ネットのない当時あれほど露骨に内臓を曝すことができたように。
見当はずしついでに、この映画は当初氏の嘘に気づかず撮影を開始したそうで(元々何を主題にしたかったのかはっきりわからないけど)亡くなってから判明したことも沢山あったそうだけど、この映画自体がその虚構性をどう解釈してるかわかるような造りがどこかにあったらもっと揺さぶられたかもしれないと思う。まさに切り取ってつくられた映画によって提示された現実と嘘なのだから。あの終わり方だけだとちょっと薄味かなと感じた。