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「全身小説家」に投稿された感想・評価

原一夫監督作

小説家、井上光晴の人生の最後に密着したドキュメンタリー。

前半は小説家、井上光晴の生活とガンの診断、治療を描いている。ここまではわりかし普通だなという印象。

この映画の見所は後半以降。井上が自分で語る出生を原監督が紐解いていくと、明らかな矛盾と虚構が現れてくる。

彼は小さい頃から嘘つきみっちゃんと呼ばれていた。彼は自分の人生を虚構で塗り固め、フィクションを体現した人生を送ってきた。彼の人生自体そのものが小説だったわけだ。

でも、人間は多かれ少なかれ自分の経験を、自分の中で脚色しストーリーとして昇華させている。フィクションはファクトの断片であり、フィクションは時として現実よりも鮮明に現実を浮き彫りにする。是枝裕和の「真実」と非常に呼応するテーマ。

この、映画や小説が持つフィクション性に、現実の断片を切り取るフィクション性の恩恵をあまり受けていないであろう、ドキュメンタリーという手法で接近するというこの行為がやはり面白い。ある意味メタ構造というわけだ。

原一夫監督は本当にドキュメンタリーというジャンルで、実験的で攻めた作品を撮るなぁとこの映画を見て実感した。彼の他作品と比べたら面白さでは少し劣るけど、攻めてる度でいうと、かなり攻めてると思う。
ObiRen

ObiRenの感想・評価

3.8
タイトルが的確すぎる。

フィクションにおけるリアリティの話があったが、まさか自分の人生談にまで及ぶとは。

スタイルを貫ぬききってて、ただただかっこいい。
晩年の井上光晴に密着したドキュメンタリー。初見のつもりだったが、開始早々、昔、観たことを思い出した。「ゆきゆきて神軍」の衝撃が覚めやらぬ頃、たまたま上映会があったので、観たのだと思う。
井上と彼を取り巻く集団の独特の雰囲気は、一種異様に映るが、実際の井上は、かなり魅力的な人物だっただろうことも伝わってくる。小説家でなくとも、セールスマンでも、詐欺師でも、占い師でも、宗教家でも、特定の分野では、何をやっても成功しそう。
途中から自身の語る半生の虚構が暴れていくが、サービス精神が半端ないため、自分にふさわしい過去を創作してしまったように感じる。インタビューでも、誰も井上の嘘を批判的に捉えていないところが興味深い。本作で「フィクションにはリアリズムが根底にないと…」といった旨の発言をしているが、まさにその言葉どおり、自分の人生にふさわしい嘘であったのだろう。
また、全編を通して、埴谷雄高が常識的で良いおじいちゃんに見えるのも面白かったし、葬儀の弔辞で堂々と虚構を語る瀬戸内寂聴の曲者ぶりも面白かった。
長女の井上荒野の作品を読んでみたくなる。
2009年の感想。NHKBSで放送中の「ブック・レビュー」に井上荒野さんが直木賞受賞作「切羽へ」で出演。この方が、この作品の主人公である井上光晴氏の娘さん。大体、自分の娘に荒野って付けるくらいですから、普通の人でない事は、確か。冒頭から埴谷雄高との飲み会で怒鳴りだす。伝習所では、辛辣な批判を参加者に投げつけ、飲み会では、サービスしまくる。この感情の起伏から、寂しがりやなのだろう。伝習所の女性との関係が、その女性から事も無げに、あるいはいい思い出として積極的に語られるのは、驚きだ。母との不幸な別れが彼を嘘つきにさせ、女性を求め続ける事になったのだろうか。(本人は否定するでしょうが)経歴がことごとくフィクションであるが、本人とっては、その時の自分の気持ちを語るとフィクションのほうがしっくりいったのだろう。(周りは迷惑かも)このあたりの「虚構と現実」は、原監督作品のテーマに合致している。荒野さんが「自分の恋愛小説は、父の作品と比べると取るに足らないだろうが。」と発言してましたが、井上光晴本人は、恋愛は、やるもので書くものではない、文学として書くものは世の中に他にあると言う感じをこの映画を見て改めて感じました。逆に荒野さんが恋愛小説を書くのは、必然であったのではないかと映画を見ながら感じました。悲しいかな井上光晴作品の説明がないので、私のような読んだこともない人たちには、背景が分かりづらい構成だったと思います。でも壮絶な小説家の晩年を見れる稀有なドキュメントでした。
メモ
作家、井上光晴の晩年を追ったドキュメンタリー映画。井上光晴の本は読んだことがないが、ずいぶん周りの人に愛された人だなという印象。一方で虚言癖もあったようで、映画の中で次々と嘘がばれていくのは少し面白い。しかし井上光晴は今も読まれているのだろうか? 直木賞をとった娘の方が知名度ありそうだ。
やっと見れた
このタイトルが全て
ゆきゆきて神軍もそうだが、よくこんなタイトル思いつくなと
yoc

yocの感想・評価

3.7
カルトの教祖と信者たちって感じがすごい…
小説家だからよかったものの、一歩間違えば詐欺師だったかも…
身近にいたら嘘を見破れるかなぁ…
丸

丸の感想・評価

1.9
夢を見せるといえば聞こえはいいが扱いやすい自前の王国を作る小心者にしか見えなかった。最初からこの人は嘘をついていると思ったし、不思議なところはなぜみんなこの男の見え透いた本性に気づかないのか。ただ、手術で根を上げないところはフェイクを超えた何かを感じた。結局視聴者の期待するものや本質を原一男は描き切れてないと思う。その点、原一男でも描きれなかったという点に彼のフィクショナルな全身小説家としての凄さがある
Q

Qの感想・評価

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嘘の根底は、リアリズムなんですよ!
とか言っている姿を見て、この人の輝きはサービス精神かな、この湧いてくるサービス精神はモテるな!なるほど思った。

奥さんが出てきた。
やはり、好きだ。

手術シーンまで撮っている!
結果を知っていても、いても立ってもいられない。850g肝臓を取った人間。

「やりたいこと全部やった方がいいよ!不倫だってそう。やるなら上品に激烈に!!」
「ドクターのあれは説得力ではないですね。説得力風なんですよ。言葉には、自分のための表現と人のための表現があるんですね。それが同時に統一されないと、説得力にはならない」

この男……と憎々しい気持ちがあるのに、井上光晴がしゃべれば、どうしても引き込まれる。なんなんでしょうね。


映画見て、埴谷雄高を見ていたら、実家にあった文学全集の井上光晴を思い出してきた。歴史と記憶とここまで続く小説の世界が混ざって不思議な気分になった。
井上光晴の晩年を追ったドキュメンタリーです。なんだか好きになってしまいます。これを観て嘘付きであると嘲笑するのは容易いですが、朗々とした語り口は魅力的ですし、たまにキレるけど言ってることはハッとさせられるし、自分の生い立ちや過去について嘘はつきますが、目の前にあるものに対しては真摯です。では、なぜ過去に対して嘘はがりついているのか。小説家であるからすべてが作品ではあるだろうし、母に会いに行って拒絶されたのがきっかけのようにも思えるし、いろいろな見方ができるように思いました。それにしてもモテまくりやりまくり井上光晴です。対象は美醜を問わず、生まれてから死ぬまでって感じですね。狙いはなし、全部いきます。手術シーンはグロかったですね。
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