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ウィッシュの雑記猫のレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
2.6
 地中海の小国ロサスでは魔法使いである国王マグニフィコの統治のもと、国民は平和な暮らしを営んでいた。ただし、ロサスの国民には自身の願いとその記憶をマグニフィコ王に差し出すという掟があり、月に一度、王に選ばれた一人のみがその願いを叶えてもらっていた。ロサスで暮らす少女アーシャはマグニフィコに弟子入りするために王の面接を受けるが、そこで王が国にとって利益になる願い以外は決して叶えるつもりがないことを知る。王のやり方に疑問を持ったアーシャは、願いを国民のもとに取り戻したいと考えるようになるが、そんな彼女のもとに魔法の力をもった願い星・スターが姿を現す。


 ウォルト・ディズニー・カンパニー100周年を記念して制作された本作。同時上映の短編の内容然り、エンドクレジットの演出然り、この100年を総括するアニバーサリー作品という色合いが強い作品となっている。そのような観点で作られた本作『ウィッシュ』のテーマはシンプルに「夢と魔法」、つまりはこの100年ディズニーが連綿と作り続けてきた作品群の本質は何かと問われた際のディズニー・スタジオとしての答えはこの「夢と魔法」だということなのだろう。これまでの作品群の安易なクロスオーバーやカメオに頼らず、一から新しいキャラクターと世界観を創造したうえで、これまでの作品群の総括を行おうという本作のスタンスは好印象だ。


 本作ではこの「夢と魔法」というテーマに沿って物語が構築されており、そこにディズニー映画の王道であるミュージカルを載せた構成となっている。そのため、国を救う英雄の少女とヴィランである悪王という近年のディズニー映画と比較して、非常にシンプルな脚本と世界観が展開される。これは良し悪しで、近年のディズニーに特徴的な高い社会性は本作では薄いため、作品としての深みはそこまでないのだが、その分、分かりやすい娯楽作に徹しており、とっつきやすい作品となっている。近年のディズニー作品は所謂ポリティカル・コレクトネスを意識した作品が多く、個人的には現代の価値観のアップデートに即した作品作りをするその姿勢には好感を覚えるのだが、その分、キャッチーさやとっつきやすさは過去作と比べ、少し劣る作品が多かったように思われる。本作ではそういった取り組みは一旦置いておいて、前述のディズニー・スタジオの総括に重きが置かれているため、作品単体としては分かりやすい勧善懲悪に徹しており、素直にエンターテインメントとして楽しみやすくなっている。


 本作では6曲が新曲として書き下ろされており、その中でも『ウィッシュ〜この願い〜』が作品のメインテーマとして扱われているのだが、この曲がかなり耳に残る名曲で、個人的には2014年の『アナと雪の女王』の『レット・イット・ゴー』以来のインパクトのある曲であると感じている。一世を風靡した『レット・イット・ゴー』は今ではアナ雪を代表する曲として扱われているが、本編を見た人は分かる通り、この曲は実際のところはヒロインの一人のエルサがやけっぱちになっている時に歌う歌で、作品全体を代表する歌かと言われると若干疑問が残る。一方、この『ウィッシュ〜この願い〜』についてはヒロインのアーシャが本作の鍵を握るキャラクターであるスターと出会うという作中の重要な場面で歌われる曲であり、かつ、クライマックスで民衆がマグニフィコ王に反旗を翻す際に自分たちを奮い立たせる際にも歌われる作中のキーとなる曲だ。このようにキャッチーで強いメインテーマが、しっかりと作品の芯となっている本作の構成は、ミュージカル映画として理想的だと感じる。


 本作の難点を指摘するとすると、キャラクターの薄さが挙げられると思われる。前述の通り、本作の脚本は良く言えばオーソドックス、悪く言えば淡白なため、これに引っ張られてか、主人公のアーシャのキャラクター性もかなり淡白なものとなっている。もちろん、これまでのディズニーヒロインに負けず劣らず、表情豊かでよく動き、高らかに数々の曲を歌い上げるのだが、物語を牽引する狂言回しとしての役割以外の彼女独自のキャラ付けはほとんどなされていないように感じる。また、これに関しては主人公である彼女以外のサブキャラクターも同じで、作中を通して強く印象に残るキャラクターがほとんど見当たらない。全てのキャラクターが物分りが非常に良いため、ストレスなく物語が転がっていくので、これはこれで良いとも思うのだが、どうにもフックとなる部分を持ったキャラがいないため、キャラクタービジネスとしては満足感を欠くというのが率直な印象だ。
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