ガンギマリポテト

ウィッシュのガンギマリポテトのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
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ポスト『スパイダーバース』時代の、CGの上に手書きでセル画ルックに近付けるスタイルを採用してたけど、これ24fpsでやるとなんかせかせかして画が安く見えたんですよね。これはハッキリ失敗と言えるのでは...

物語自体は個人的には、ディズニーのクリエイターたちによる、企業としてのディズニーへの、さらに言えば全体主義への反逆の物語に思えて、楽しめました。

「人々の願い」、希望や夢を搾取して成り立ってる王国ってまんまディズニーだしディズニー・リゾートじゃんね。前半はサウスパークみたいなダークなパロディになってて最高だった。一曲目の歌のシーンなんかアイシャがランドのキャストさんみたいだったし。

クリス・パイン演じるヴィランは世の中に腐るほど居る、説明責任を放棄した大衆煽動型のポピュリストだけど、変に仰々しくて人を見下した感じの仕草といい、わざとらしい表情といい、コイツから最も連想させられたのはやっぱりデサンティスかな。“願い”の検閲をする描写やクィアを公表してるアリアナ・デボースのキャスティングも含めて、昨年報道されたDSG法をめぐるボブ・チャペックの献金、及び検閲スキャンダルはどうしても頭をよぎった。ああやって、クリエイターたちが本当は作りたかったのに潰された企画やシーンなんか、それこそ星の数ほどあったんだろうなァ...なんて。その割にはそんなにクィアの表象はなかったけど。

そんな具合で、途中まではディズニーによるディズニー批評映画として割と楽しめたけど、どうしても無理、ってなったのはラストの「女王陛下万歳!」。ズッコケたし変なうめき声が漏れてしまった。
『ブラック・パンサーWF』でも同じこと思ったけど、なんで2時間かけてあそこまで荒ぶる王様と闘わせておいて、君主制だけは意地でも解体しようとしないんだろうな...パワーは皆んなで話し合って公平に再分配して、これからは民主主義でやってこうぜ!とはどうしてもならないんだよね。
王の魔法が無くなった王国で女王がその後、どんな福祉体制を築いていくのかは描かれないから、結局は新自由主義的な自己責任の国になっていく予感しかしなくて、あまり希望を感じられない(あ、“女王の誕生”って女性の社会進出って意味じゃなくて、サッチャーの時代になっていきますよ、っていうブラック・ジョークなのか...?)。
「自分の願いは自分で叶えられる!」
「素敵!じゃあ、王国は魔法も金もないし関与しないんで、自助努力で頑張って!」
「イェーイ!」みたいな。

オタクの妄想だけど、女王にはむしろ「ずっとこの城が嫌いだった」とかなんとか言い放って魔法部屋も玉座も城も片っ端からブッ壊す、ぐらい大胆なことをやってもらった方がキャラクターの厚さも深みも増したと思ったんだけど......あの人って「王子様と幸せに暮らしましたとさ」のその後の姿とも読み取れるワケだし......

アイシャも、魔法の杖なんか受け取らないよ...と思いきや皆んなが囃し立てるんでやっぱ貰っときます、みたいなラストの下りは本当にモヤった。アイシャはフェアリー・ゴッド・マザーになりたかった(クィアの文脈?)んなら、もうちょっと早い段階で言っておいて欲しくて。じゃないと結局、デザインが邪悪じゃなくなっただけで“不均衡なパワー”としての魔法(の杖)はロザル王国に残ったままじゃん。
「ただのアイシャでいい」
「外部から施しのように授からなくとも、ひとりひとりの中に願いは、魔法は既にあるから(=“皆んながスター”)」
で良いじゃん。ていうか、そういう話じゃなかったっけコレ?SWのep9でも見たよなこういうの。『ソウルフル・ワールド』から後退してないか?ホント、なんなんだよ。


p.s.にわかに信じがたいけど、2023年公開の映画のなかで最強レベルのドラッグ描写があります。
(動植物が歌い出す:アニミズムという魔法ってことなんだろうけど、Netflix 『Saturday Morning All Star Hits!』で見たやつだ!ってなって爆笑した。喋る動植物はディズニーのお決まりだけど、最初に話すのがアレかよ!