Hiroki

その道の向こうにのHirokiのレビュー・感想・評価

その道の向こうに(2022年製作の映画)
4.1
2023オスカーノミネーションがありまして『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が10部門11ノミネート、『イニシェリン島の精霊』が9ノミネート、『フェイブルマンズ』が7ノミネートと予想通り3強が引っ張る形に。
主要部門は少ないながらも英アカデミー賞で圧倒している『西部戦線異状なし』は9ノミネート、そして『エルヴィス』が8ノミネートとこちらも強さを見せました。
個人的にアカデミー賞本番までにはなるべく全ての作品を観てあーだこーだ言いたい勢なので、上記作品の他にもパルムドールとの2冠を狙う『逆転のトライアングル』が観れそうな事は嬉しい限り。
逆に主要部門だけでも『TAR/ター』『ウーマン・トーキング 私たちの選択』『ザ・ホエール』『Aftersun』『生きる LIVING』『To Leslie』が観ることができない。
昨年はほぼ全ての作品を観れる状況だっただけに残念。

今回のノミネーションの中で3大トピックスは『トップガン マーヴェリック』の撮影賞選外、主演女優賞に『To Leslie』のアンドレア・ライズボローの選出、そして助演男優賞に今作のブライアン・タイリー・ヘンリーの選出。
実は元々は主演女優賞に今作主演のジェニファー・ローレンスがノミネートされるのではないかと期待されていたのですが、蓋を開けてみるとジェニファー・ローレンスではなくブライアン・タイリー・ヘンリーの方がノミネート。

今作は提携関係にあるみんな大好きA24とAppleTVの共同制作のため、AppleTV +での配信なのでかなり規模が小さい印象。
日本ではほとんど話題にもでていない感じが...
周りにもほぼ観てる人がいないのですが、A24そしてAppleTV +のめちゃくちゃど真ん中をいく正統派ヒューマンドラマで、非常に胸を打つ作品。

まずは主演のジェニファー・ローレンスが素晴らしい!
個人的には近年役に恵まれないなーという印象だった彼女。
仕事から距離を置いている時期にこの脚本と出会い強烈に惹かれて製作を兼任してまで作り上げたその目に狂いはなかったと。
帰還兵でPTSD、レズビアンで家族への鬱屈した感情を抱いているという難しい役を完璧に乗りこなしていた。
彼女のちょっとした隙間に見せる寂しげで不安げで、どこか空虚な表情がこの物語全てを表していたといっても過言ではない。
さらにはその母親役のリンダ・エモンドも良かった。
娘を抑圧しながらもそれは愛するがゆえの過ちという微妙なニュアンスを繊細に演じていた。
さらには兄役のラッセル・ハーバードもワンシーンしか出てこないのだけど強烈なインパクトを残す名演。

内容的には水という要素がずっとあって、リンジー(ジェニファー・ローレンス)はずっと水に惹かれていて戦地でもダムに従事する仕事をしている。
そしてニューオリンズに戻ってきてから就く仕事がプールの清掃員。
大小様々なプライベートプールをひたすら掃除するシーンがたくさん映し出される。
水という象徴的なモノが入る器であるプールを磨くという作業は、まるで自分の心を洗い流しているようだった。
そんな彼女は自分1人か、気がおける仲のジェームズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、母親のグローウェル(リンダ・エモンド)としかプールに入っていなかった。(しかも母親と入る時は少し遠慮がちに...)
しかし心の整理がついた時、彼女はたくさんの人で溢れる市民プールに飛び込む。
ここらへんの展開と役者の演技、音楽や撮影などすべてが過不足なくそこに自然と流れていて本当に心地よかった。
決してスタンディングオベーションは起きなくても1人でギュッと拳を握るような、そんな素敵な映画でした。

最後にオスカーに向けて、本当に素晴らしい演技を見せてくれたブライアン・タイリー・ヘンリーだけどやはり少し厳しそうですかねー。
色々な予想サイトを見ていると圧倒的に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のキー・ホイ・クアンがフロントランナー、次点に『イニシェリン島の精霊』のブレンダン・グリーソンとバリー・コーガンとの事。(しかしイニシェリン島は2人ノミネーションされていて票が割れると不利との予測。)
まー私はまだどちらも観てないのでなんとも言えませんが...
しかし賞によってブライアン・タイリー・ヘンリーの名演が変わるわけではないので。
彼はTBAも含めて4作くらい公開が控えているようなので、賞の行方と共に楽しみです。

2023-4
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