社会のダストダス

恋のいばらの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

恋のいばら(2023年製作の映画)
4.5
未鑑賞のものも含めてこの一年で5本くらい公開されている城定秀夫監督の新作、年明け一発目の劇場鑑賞を飾るのにふさわしいと思い本作をチョイスしました。

「恋人同士では観ないでください」というキャッチコピーになっているが、その意味だと同じ監督の作品なら『ビリーバーズ』とかのほうが数段ヤバいと思う、好きだけど。

主演作は初めて観る松本穂香さんと、『窓辺にて』での好演も記憶に新しい玉城ティナさんのW主演。エッチなことに定評のある城定秀夫監督作品であるので、まさかあんなことやこんなことをしてしまうのだろうか、これはいかん検閲しておかねばなるまいという使命感を持って公開初日に鑑賞して参りました。

自分を含め観客は9割くらいが一人で観に来ている男性、同じことを考えているスケベ…じゃなくて同志が多いようだ。まあそうはいってもTOHOシネマで上映するような作品だから、縛られた状態で尺八させながらSASUKEの実況みたいなことを叫ぶヤバイおっさんは出てこないだろうという安心感はある。

「リベンジポルノって知っていますか?」

最近彼氏にフラれて関係が終わったばかりの桃(松本穂香)は、元カレ健太郎(渡邊圭祐)のインスタを見ていて新しい恋人がいるらしいことを知る。そこから桃はインスタのタグづけを辿って、今カノである莉子(玉城ティナ)の存在を特定、ある理由から直接会いに行ってしまう。関係を解消した今、健太郎に撮られたプライベートな写真が気がかりな桃は写真のデータを消すために、同様に不安を覚えた莉子に秘密の共犯を持ち掛ける。

映画館のシーンでバックに『明け方の若者たち』のポスターがあり、そういえば去年最初に劇場で観たのはこれだったなと思い出して少し懐かしくなった。

リベンジやらポルノやらドロドロしそうな題材ながら、比較的爽やかにシスターフッド感のあるドタバタ作戦を展開していく観易さに纏められているのは城定監督らしいと思った。2023年を占う映画初めに良い作品に出合えた、念のために書いておくとエロすぎないほうの城定作品です、このあたりの作品毎のさじ加減を見るに器用な人なんだろうな。

若干メンヘラな印象を受ける桃、クールな態度の莉子、女性遍歴が未知数の健太郎、認知症に見えるお婆ちゃん。見ることと見られること、フィルターを入れ替わることで登場人物の本質が浮かび上がる設計は面白い。桃と莉子の関係の重石を担っているのがターゲットの健太郎というのは皮肉めいているし、彼がこの手の作品によく居るサイテー男と思わせてからの、意外とピュアな一面もあったりする。

玉城ティナさんのあのいばらのようなトゲトゲした物言いが良いですね(悦)、『窓辺にて』に続き魅力が炸裂していた。今回はダンサー志望の役なので長い手足がまあ映えること。回想シーンで中年おじさんが一緒に寝ていたのを見たときは嫉妬に狂いそうになった、なるほど相手の元カレ元カノを知るのはこういう気持ちになるものなのか。

2人の作戦が成就した後に残るのが正義や復讐といった大げさなものでなく、お灸をすえてやったというイタズラ的なスッキリ感に止まったのも着地点として良かった。スケールは違えど似たようなテーマの作品だと加害者側を晒し、社会的に断罪することがクライマックスのカタルシスに据えられがちな気がするので、彼のしたこととその始末も共犯関係の二人の秘密にしたことは洒落ている。

ピンク映画出身の監督だからなのか、何でも無いシーンでも色気を帯びていて、主演二人に常に磁力のようなものを感じる。単純に面白かったし、良い映画初めを切らせてもらえたのでこのスコアで。恋人同士で観ても特に問題はないと思います、強いて言うなら反面教師にでもすればいいかと。