湾岸に住むランナー

燈火(ネオン)は消えず/消えゆく燈火の湾岸に住むランナーのレビュー・感想・評価

3.5
 百万ドルの夜景、香港。その象徴たるネオンサインが、建築法の改正により九割がた撤去されているのだそうだ。LEDへの切替は世の趨勢で仕方がない。『慕情』に描かれた香港はもうないのだ。その一方で、昔ながらのネオンを生かす試みもあるらしい。どんな物語にも終わりがあり、そして新たな物語が始まるのだろう。
 元ネオンサイン職人の夫を亡くしたメイヒョン。最愛の人を亡くした悲しみと、自分が夫を追い込んでいたかもしれないという罪悪感に苛まれて、嘆き悲しむ毎日を送っていたのが、夫がやり残したネオンの完成を目指すことになって…という話。
 弟子のレオとの出会い、娘のチョイホンとの衝突、ネオン作成の困難など、紆余曲折あるうちに、メイヒョンに変化が表れる。そして、たとえ一晩限りであっても、夫のネオンサインを復活させたメイヒョンは、嘆き悲しむだけの毎日から脱却できたと言えよう。レオに卒業証書を渡したとき、彼女も悲しい寡婦の物語から卒業したのだ。そして、また新たな物語を生きていくのだろう。
 ある一人の女性と、変貌を遂げつつある香港という街の、それぞれの喪失と再生の物語であると、個人的には理解した。一国二制度が脅かされて変わりつつある香港の現状を重ね合わせると、また別のことも頭をよぎり、興味は尽きない。
 私は見て良かったと思うが、評価をあまり高くしなかったのは、淡々としていて一般受けする映画じゃないし、完成度としてはイマイチのところもあるから。私の連れは、単調な展開とふわふわした広東語(?)に眠気を誘われたそうな。確かに、やりようでもっと面白くも、感動的にもなるよなあと思う。登場人物たちの気持ちの変化が唐突で分かりにくかったり、日本人とのユーモア感覚の違いが感じられる場面もあった。ハリウッド映画的な盛り上げには欠けると思う。ただ、私は、予告編を見た段階で、もう勝手に妄想して、雰囲気で好きになっていたので楽しく鑑賞した。これは見る人の好みだろうなあ。