マーフィー

理想郷のマーフィーのレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
4.6
2024/01/16鑑賞。

PERFECT DAYSを見て「都会でもスローライフってあるんだなあ」と思った。
そしてこの映画を見て「田舎に行けばスローライフがあるわけじゃないんだなあ」と思った。

理想郷なんて個人の中にある世界で、個人の中にある以上都合の悪いものは排除されている。
映画『月』のパンフレットに、「表現者の作る世界の中には都合の悪いものは排除されているもの」という話があったが、それぞれが追い求める理想郷だって同じようなものだと思う。
ある人の理想郷には景観をぶち壊す風力発電機なんてないし、またある人の理想郷には異なる文化圏から来た外国人もいない。
理想郷を押し付ける、ある意味傲慢さがもたらした悲劇ということもできると思った。

作品全体を包む不穏すぎる雰囲気は、前半の大きな展開があるシーンで最高潮に。
犬と歩く主人公を中央で少し離して捉えたカットの後ろの方にピンボケで映り込む兄弟が本当に不気味。すごく上手いカメラワークだと思った。
それまでもそういうシーンはあったんだと思うけど、あのシーン以降は背景に映る2人組が全部怖く感じた。しかも兄弟じゃななくてただの知らない人だったりする。もう監督の手のひらで転がされまくってる。


主人公夫妻が地元の兄弟によって徹底的に迫害され、どこまでも夫妻に同情していき、兄弟のヤダみがどんどん増えていく。
見ているこちらとしてはどうやっても主人公側の肩を持ちたくなる構成。
しかしそこからど迫力のワンカットの 対話シーンを経ると、「あれ?」ってなる。
果たして私が感情移入していたこの人物の言っていることは正しいのだろうか。
冒頭から強烈な村社会感を植えつける会話シーン、意地悪なお隣さん、協力的でない地元警察...私が持ったこの町の嫌な感じはあくまでも夫妻の視点の生き写しでしかないのではないか?
もっと言えば、夫妻が受けた被害は誰がやったものかは実際わからないものも多い。
誰がやったか定かではないまま、でも主人公の視点で描かれるせいで、明らかにあいつらのせいだと思えてしまう作り、かすかに『裏窓』っぽいなと思った。

私はこの映画の仕掛けにすっかりハマっているのではないかと思った。
めちゃくちゃ上手いな。いい映画体験でした。


フォロワーさんのレビューを見て、主人公の都会育ちが故の「上から目線」、
振り返ってみれば確かに節々に感じられるなと思った。
対話がさらなる溝を生んでいる点も根本はここなんだろう。


ドラムが印象的なBGMがものすごい不穏な感じを強調しているように思えた。










「ティタン」と呼びかける声がなぜか癖になった
言いたい。「ティタン、ティタン」



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