見終わってもずっと考えてしまう。
あの表情はいったいどんな感情だったんだろう。
伴侶を失った時、去来する感情は、単なる喪失の哀しみだけではないだろう。
言葉では決して語られない複雑な感情を、痛いほど切なく感じとれる作品でした。
モロッコの伝統衣装カフタンの仕立て屋夫婦と若い職人の物語。
カフタンの刺繍、
街頭放送のコーランと礼拝、
旧市街の混み合った古い家々、
タジン鍋とオレンジ、
透かし模様のバブーシュ、
公衆浴場ハマム…
静かに営まれるモロッコの暮らし。
しっかり者の妻は不治の病を抱え、
優しい夫は秘密を抱えていた。
真摯な若い職人は仕事への情熱を…。
ほぼほぼ表情を変えず、
感情を語ることもなく、
淡々と過ぎる中、
察しが良く賢く強い妻の覚悟や、
夫の苦悩と哀しみ、職人の焦燥、
苦しいほど伝わってくる。
終には二人だけの葬列。
感謝か、贖罪か、思慕か、
ひとつの言葉では表せないけれど、
どれも深い愛であることには変わりないだろう。
イスラムの男性社会に紛れる二人のラストシーンの表情には、どんな感情が見てとれるのか。
音楽が、前半はちょっと重く感じて気になったけれど、後半の感傷にぴったりとハマって見事だった。