fancymummy

ギレーヌ・マックスウェル:権力と背徳の影でのfancymummyのレビュー・感想・評価

4.0
内容は「ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者」から流用している部分が多かったが、出来事を思い出して咀嚼する意味でもありがたい構成だった。
マクスウェルの判決が出るまでの映画だったが、マクスウェルの生い立ちや性加害行為、サバイバー達それぞれの証言や思いの情報量の多さに考えるのをやめてしまいたくなった。

エプスタインを喜ばせるために法を犯すマクスウェルの認知の歪みは幼少期に父親から植え付けられたものなんだろうなと思うが、他の犯罪者しかり子供が閉ざされた家族の中で自分が蔑ろにされている事に気づく事すら出来ないのはあまりに酷と思った。
とはいえ未成年者を懐柔して顧客である世界の権力者に人身売買をしていた性犯罪者である事に変わりはなく、肉欲と権力がここまで誰も止めることがない犯罪に肥大化させたと思うと具合が悪くなってくる。

映画の後半では裁判の経過の中で、サバイバー達に巨額の保証金が支払われていたことが描かれる。
保証金が支払われたことで解決したと思ってしまいそうになるが、それは金で心が買えると思うのと変わらないのではないかと思うに至った。
サバイバーの中でもレイヤーがあって、保証金目当てに弁護士を訪ねた人がいないとは言えない。
だがしかし事件は確実にあった出来事で、顔を出して戦う人がいれば深く傷ついて立ち直れない人もいる。
私が10代後半の頃、萩尾望都の「残酷な神が支配する」を初めて読んだが、性的虐待を受けた主人公の心が全く理解出来なかった。
物語の中~後編は主人公が奪われた心を取り戻す作業に費やされるのだが、いつまでうじうじしているんだろうとイライラしていた。
二度と読まないだろうなと思っていたが、ドキュメンタリーを多く見たり、ニュースをちゃんと見て考えるようになってからもう一度読み直すと全く違った感想を持った。
物語の3分の2を費やしても壊れた心は治せないということをようやく理解した。

自分が経験したことのない事には非情になりがちで、当事者の気持ちを考えず合理性だけで判断してしまう事が多いが、一回立ち止まって熟考してから発言したいものだなと自分の心に重石を置くことにする。
fancymummy

fancymummy