Elly

ソフト/クワイエットのEllyのネタバレレビュー・内容・結末

ソフト/クワイエット(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

とてもショックだったので覚えているうちに思ったことをバーっと...✍️

あまりにも展開が最悪なのと(この後こうなったら嫌だなという選択肢の方に全てが転がっていく)、犯行シーンは追体験をしてしまうくらいに生々しいので、知人に観て!とおすすめは出来ないなと思った。けど、パンフレットに載っていた監督のインタビューを見たら考えを改めさせられた。
差別に対して容赦したり、その背景を理解したり寄り添おうと努力をする余地はもう無く、目の前で起こり自分にも降りかかり得るヘイトクライムの実情を知って、今すぐに行動をするべきというベス・デ・アラウージョ監督の言葉を読んで、自分の中にある目を背けたい欲とまずは戦わないといけないと思った。(それだけでは到底足りないのは承知の上で...)し、見られるコンディションの人は見て欲しいと思った。

(※ネタバレ)
白人至上主義の人々について、ニュースで見聞きして、その存在や行動があまりにも恐ろしいので「そういう人々がいる」という認識程度に留めていた(深く追求せずに意識的に抑えていた)けど、この作品は認識の膜を剥がして、彼らやヘイトクライムが実在していることを脳みそに叩きつけてくれる。実在することを知らない方が安心して暮らせたと思うけど、逆に言えばずっとこうした実際の被害の凄惨さから目を逸らし続けてきたのだと胸が痛んだ。

最初の会合シーンからずっと最悪。
もはやホラー映画ではなく、実際のヘイトクライムの動画を見させられているような作りで、何度も途中で耐えられなくて叫び出しそうになったし、実際に何人か途中で劇場を出て行ったし、私も含めエンドクレジットが終わってから誰も何も話さずに我先に劇場を出て行こうとする様子に、観た人たちのショックの大きさを感じた。

どれだけ頭を捻っても思いつかないような暴力の数々。パスポートを燃やすのも、下着を臭そうと言われるのも、直接的な暴力も全て嫌。個人的に途中の一番最悪なシーンでレスリーが言った「報いだ!」の意味が本当にわからなくて、何の報いなんだろうと馬鹿みたいに思ってしまった。有色人種に生まれて自分たちよりも恵まれた生活をしていることへの報い?姉妹の家で憎悪と怒りを発散する四人を見て、自分で自分を地獄に落としたくせにガタガタ抜かすな、と怒りが湧いてしまったな。

重要なポイントだと思ったのはエミリーの精神の脆さが顕著なところ。
おそらくだけど、結局のところ彼女が出来るのは頭の中で有色人種を酷く痛めつける妄想をすることと、現実世界ではせいぜい「鬼の居ぬ間に洗濯」程度の憂さ晴らしで、彼女にとってはそれで十分なんじゃないかと思った。(事態が加速してく中での彼女の動揺っぷりから)
その点レスリーには本当に容赦がないので、二人の立場の逆転劇が起きた時、あれだけ白人の中でも自分は優秀な遺伝子なのだと宣うエミリーが刑務所上がりのレスリーが持つ暴力の強さに屈してしまうところも、彼女の精神の脆さを感じた。

また、エミリーは冒頭で刑務所に入っている兄のジェフからの電話を無視している(ということは兄がしたことが悪いことだと知っている、またはそれは別としてもあまり良好な兄妹関係ではないことがわかる)のに、姉妹が兄の罪に言及した際には自分の魂が傷つけられたと言わんばかりに火がついたように怒りを露わにする。彼女は真実を何の躊躇もなく捻じ曲げ、自分を被害者またはヒーローに見せるためなら何でもするのだが、その狡猾さと意志の弱さが彼女の軽薄さを目立たせていた気がする。

そして、エミリーの夫・クレイグというキャラクターを通して差別主義者の家族という存在について初めてきちんと考えるきっかけを得た。クレイグはエミリーたちの行動にストップをかける唯一の人物だが、その動機はあくまでも仕事を失いたくないという自分たちの保身であり、心の底からヘイトクライムに対して反対しているかはわからなかったし、おそらくその部分でいえば彼もまた差別主義者ではあったと思う。彼のような人を理性的と捉えるのは危険だと思う。彼の行動は本質的には何の解決にもなっていないし、本当に理性的であれば家族であろうが警察に通報すべきだった。エミリーの煽りに折れてしまった場面を見ると、彼もまた白人至上主義でマッチョイズムの強い家庭で育ったのかもしれない。

監督へのインタビューにも書いてあったけれど、この映画を見ている私はどの立場にいるのか、それを問われる作品だった。私たちとアン・リリーの姉妹はそれこそ見た目だけ見たらほとんど変わらない。最後のアンのように、死の淵から水面に瀕死で泳いでくるのは私かもしれない。

じゃあこれ見てあなたに何が出来るの?と聞かれてもわからない…わからないけど、ヘイトにNOを突きつけるくらいの勇気は持ちたいし、自分の中に差別やヘイトの欲望がないかを問うてはいきたい。現実に起きていることに比べるとあまりにも無力だけどね…。
Elly

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