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ロスト・フライトのRのネタバレレビュー・内容・結末

ロスト・フライト(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で友人1人と。

2023年のイギリス/アメリカの作品。

監督は「ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男Part1ノワール編」)のジャン・フランソワ=リシェ。

あらすじ

かつては大手航空会社に在籍していた実力派パイロットのトランス機長(ジェラルド・バトラー「カンダハル 突破せよ」)。離れて暮らす愛娘との久しぶりの再会を待ち望みながら、その日のフライトは順調かに思えたが、突如激しい嵐と落雷に巻き込まれてしまう。通信も途絶え、コントロールも失った機体で奇跡的に孤島に不時着するトランスだったが、そこは凶暴な反政府ゲリラが支配する無法地帯だった!

初めは主演がジェラルド・バトラーだったのでそれなりに気にはなっていたものの、劇場で観るつもりはあんまりなかったんだけど、他の映画を観に行った時に予告が面白そうだったので友だちを誘って鑑賞。

結論から言えば、いやぁ…例えるなら「お茶漬け」のような「ちょうど良さ」。他の方々がおっしゃられている通り、まさに「こういうのでいいんだよ!」映画でした。

お話はあらすじの通り、「航空パニック」と「脱出サバイバル」が一本で2度美味しい、パンフの謳い文句を借りるなら、「ハイブリッド・サバイバルアクション」映画な内容となっている。

まず、冒頭ちょっと意外だったのがジェラルド・バトラーってやはりそのコワモテでワイルドな顔立ちから、ことアクション映画での主役となるとストイックでシリアス一辺倒みたいなイメージが勝手にあったんだけど、今作の主人公トランスは全然そういう感じじゃなかったところ。

確かに、バックボーンとして過去に大手航空会社に勤めていたっていう経歴があったのに、今はなぜか割と小規模な空港にパイロットとして勤めており、それはなぜかというと大手時代に飛行機内で酔客が暴れているのを止めようとしたところ、殴られてしまったことで逆ギレして殴り返した挙句にはがいじめにしてしまった「やりすぎ行為」が原因だったことが作中語られるんだけど(そして、それには何か同情できる理由があったとかじゃなくて本当にブチ切れてしまったってところがまた面白い)、ただそんな血気盛んな部分も猛省したのか、鳴りを潜め、今は肩の力を抜いた余裕のある大人へと成長していることが言動に現れている。

例えば、今回のフライトで初タッグとなる副機長となるデレ(ヨーソン・アン「ムーラン」)に機長として気さくに話しかけたり、チーフパサーのボニー(ダニエラ・ビネダ「ジュラシック・ワールド/新たな支配者」)や他の客室乗務員との会話からも20年間のフライト経験がある「信頼」と「安心」が伺える。

そして、フライト前のお決まりの機長によるアナウンスでは「飛行マニュアルを読んでフライトします」と小粋なジョークまでかます、まさに職場でチームを組んだら一生ついて行きたくなるほどの「理想的な上司」。

で、この「理想的な上司」トランスという人物像が、全編通して巧みに描かれるのが本作の特徴!!詳しくは後述。

で、悪天候が予想されながら、燃料をケチった「エセ気候予報士」の航空会社の社員の無理難題によって、悪天候を回避するのではなく、嵐の真上を飛行することを余儀なくされるんだけど、そんなことは上手くいくわけがなく、飛行機は大パニックに陥る。

つまり、「航空パニック」のシークエンスに入っていくわけなんだけど、ここがまた怖い。初めはガタガタッ!て揺れるくらいなんだけど、急に機内の全設備の電気がパッと消えてしまったことで、電気系統がいかれてしまったことが発覚!!そんな中でもフライトを余儀なくされてしまうトランスたちなんだけど、意外にこういう航空パニックって俺もたくさんは観ていないので比較対象があんまりないんだけど、あんまり観ない描写だよな。

で、面白いのが観客側のパニックがあんまり描かれない代わりに、電気系統が全く使えない=飛行機をコントロールするための電子機器が使えないので、副機長デレが地図で大体の飛行経路とそこに辿り着くための時間?みたいのを予測して飛ぶ、つまりほとんど「勘」を頼りに飛ばなくてはいけない事態に。これは素人目から見てもベリーハードなことが伺えてそれだけで頭真っ白でパニックに陥っちゃいそうなもんだけど、それをやって退けるのがジェラルド・バトラー!!デレの的確な予測で緊迫しつつも「一つ一つを確実に」というモットーに則り、冷静に対処していく様がカッコいい!!途中「機長としてこんな言葉を言う日がくるとはな…着水の準備を!!」といよいよヤバいという状況下で運良く島の影を見つけ、そこを目指して燃料ギリギリで飛ぶんだけど、あたりは鬱蒼とした森ばかり、こんなところどうやって着陸するんだ?墜落か?と思ったら、そこでも道を発見して、急旋回してなんとか不時着!!まぁご都合的な運要素もありつつも奇跡的に不時着することに成功する。スゲェー!!

ただ、事態はこれで収まらない。無事着陸できたものの、なんとそこはホロ島という反政府ゲリラが潜伏する危険地帯だった!

しかも、運が悪いことにフライト前に急に搭乗させることになってしまった犯罪者の護衛の警察がフライト中の揺れで頭を打って死亡(まぁ自分のせいだが)、その犯罪者の対処も請け負わなきゃならない事態に。

で、機長としての責務として、1人でどこかに外部との連絡をとる手段がないか探すトランスなんだけど、そこで反政府ゲリラの下っ端に見つかってしまい、戦うことに。

で、ここがまた興味深いのが普通の、それこそジェラルド・バトラー主演のアクションとかなら激しい肉弾戦とかに発展しそうなものだけど、ここのアクションシーンでトランスが繰り出すのが、ほとんど主体が締め技だという点。確かに考えてみると、戦闘経験がある人ならまだしも、トランスは元英空軍に所属していたと言うても、パイロットとしての経歴が長い一般人に毛が生えたものなので攻撃を応戦しながらの防御姿勢で絞め技決めるってのは、一般人がもし戦わざるを得ない状況下ならってことを想定するとリアリティがある戦い方だと思った。

今作その後も何度か戦闘シーンがあるんだけど、このトランス銃器やナイフを携帯するもののほとんど使っていないことがわかる。あくまでも「一般人」としてのトランスというキャラクターを一貫して描こうとしていて、作り手の真面目な部分が伺える。

で、そんなむやみやたらに戦闘しないトランスに代わり、前半の「暴力担当」となるのが犯罪者ガスパール(マイク・コルター「ファタール/悪い女」)。どうやら過去に殺人を犯した元傭兵らしいんだけど、連行されている時も周囲の様子を訝しげに伺いながら大人しいし、島に不時着して、事態の究明のために手錠をトランスに外してもらい、自由になった後も「うっへっへ!ここからはおれの好きにさせてもらうぜ!」みたいなクズ野郎に変貌…するでもなく割と重巡にトランスとついて回ってくれる。

まぁ、探索時にすぐにどっか消えてしまうんだけど、逃げたのかと思ったら、トランスが下っ端と戦闘を繰り広げていた陰で他の下っ端をやっつけて、アサルトライフルをぶら下げて再登場、「お前も持っとけ」ともう一丁のアサルトをトランスに渡してくれる頼れる相棒っぷり。

もうこの時点で犯罪者としての脅威はそのコワモテな容貌以外ほとんどないと言えるんだけど、いざ戦闘となると音もなく背後から忍び寄り敵の喉を的確に掻き切ったり、途中入手したハンマーで、側から近寄って一振りでワンキル、ツーキルと確実に仕留めてくれるお助けキャラへと昇華してマジで良い!!

えーと、犯罪者って設定いる笑?

で、今作、悪天候での航空パニックと反政府ゲリラからの脱出サバイバルという「窮地×窮地」の状況下なのに上記の要素をはじめ、めちゃくちゃ安心して観れる作りなのが面白い。

というのも今作のキャラクター、みんなめちゃくちゃ有能!!トランスとガスパールは言わずもがな、デレやボニーも的確に冷静にプロとして動くし、管制室から招集された危機管理担当者のスカースデイル(トニー・ゴールドウィン「マーダー・ミステリー2」)も行方不明だった飛行機の行方を少ない情報と衛星情報で特定し、なんと本当の元ネイビーシールズが演じているらしい非正規の傭兵軍団を呼び出してすぐに向かわせてくれる。

しかも、この傭兵軍団も傭兵軍団でめちゃ有能で、呼び出されてほんの数十分の展開で直ぐにホロ島に到着、ゲリラに連れ去られた他の乗客を追うトランスの残したメッセージに従い、敵に囲まれて大ピンチのトランスと合流してしまうのだ、ゆ、有能〜!!

ということで本作蓋を開けてみるとサバイバル描写は意外と少なく、割とスムーズにトントン拍子で上手くいっちゃうので「え、これまだ中盤だよね?乗客数もトランスとガスパールの迅速で勇敢な行動で、(その前に見せしめで殺されちゃった韓国人カップルを除いて)全員無事だし、どう展開するの?」と思いたくなるんだけど、ちゃんと面白いのがすごい。

それまでの部分も「大丈夫」と「やばそう」のギリギリの境界線を行ったり来たりしながらも、演出の小技を効かせることで作品としての面白さを持続させているんだけど、「島からの脱出」に主題が置かれていた中盤から傭兵軍団が加勢した後は、反政府ゲリラとの激しい銃器アクションシークエンスへなだれ込む!!

まぁ、ここでは専門外のトランスは乗客を逃すことに専念するんだけど、その代わりに戦闘要員のガスパールは傭兵と混じっていい働きをするわ、他の傭兵たちもプロが演じているからか、無駄のない動きで大挙するゲリラを確実に仕留める。特に名もなき傭兵の1人のスナイパーが凄くて、CoDのゴレンコみたいなどでかいスナイパーライフルに的確に狙いを定めて、ジープ越しに応戦する敵を車体ごと撃ち抜いて「こいつ、何者だ!」とか言われてて、いや、それ俺のセリフ!!って突っ込みたくなるほど激強で面白かった。

ただ、ここでのトランスは戦闘で出番がない代わりに傭兵軍団が応戦する間、デレがある程度復旧させてくれていた飛行機を再起動し、なんとか乗客を搭乗させて飛行機を飛ばせようとするから、こちらまで「どうか飛んでくれー!!」とハラハラドキドキ!!

なんとか乗客と傭兵たちを全員乗せ(ガスパールは戻っても獄中確定なので別行動)飛ぶことに成功するんだけど、追ってきたゲリラのリーダー、ジェンマー(エヴァン・デイン・テイラー)が運転する車の荷台から敵がランチャーで狙ってくる!!あわや大爆発というところでそこで外からガスパールが狙い撃って敵が倒れたことでミサイルが逸れる!!というここでも名アシストっぷりで魅せる。

ほとんどの敵は撃退し、後は憎きジェンマーを残すのみ、そうなると相手どるはお分かりですね!傭兵軍団でも、ガスパールでもない、主役は俺だ!とトランスが、まるで最終作で「コンセクエンス!!」でフィニッシュを決めたジョン・ウィックが如く「フルスロットル!」の掛け声、いや殺し文句と共に操縦席からジェンマーと対峙、そのまま飛行機の降着装置で車しつこくランチャーで真正面から狙い撃とうとしていたジェンマーを車ごと盛大に粉砕するというスタンディングで拍手したくなる決着のつけ方!!

振り返ってみると、展開上仕方なく出た犠牲以外は負傷者はいるもののほとんど全員無事、しかも悪天候からの墜落、反政府ゲリラによる処刑をほとんど1人でやってのけたトランスがマジですごいことが実感として湧いてくる。

しかも、島を脱出して着陸にも成功するという偉業を成し遂げた後、本人はゲリラの跳弾を受けて負傷しているにも関わらず、他のスタッフに優しい言葉とここでもジョークをかまし、安心させるトランス!!あんた、どこまで理想的な上司だよ!!去り際のボニーも上司部下の枠組みを超えて涙ながらに最大限のハグと感謝の「ありがとう」のセリフ。ボニーならずともあんたになら一生ついていくぜっ!!

ラストは負傷して足を引き摺りながらタラップに座り込み、まるでバックの飛行機のショット込みで台座に座る、威厳のある王様のようなアングルで最愛の娘に「今から帰る。」、これぞ主人公、これぞジェラルド・バトラー!!最後まで気持ちの良い作品でした。

という感じで終始、トランスの理想の上司っぷりを堪能できた本作なんだけど、胃をキリキリさせるようなスリリングさの代わりに「ちょうど良い」面白さを提供しつつ、こういうサバイバルにつきものの和を乱す自分本位な奴が(プライド高そうなハゲとか、切迫した状況下で動画撮ってるアホとかはいるものの)いないという点も観客側に無駄なストレスやイライラを感じさせなくてめちゃくちゃ好感が持てる、まさに「お茶漬け」のような優しい味わい。

大傑作とまではいかないものの、例えば配信とかで観られるならば、その度に見返したくなる万人にオススメできる作品です!
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