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怪物のlingmudayanのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
第1章はホラー的な演出で進んでいくのが良かった(黒川想矢が髪を切るシーンや、安藤サクラが柊木陽太の家を初めて訪れるシーンなど)。第2章で羅生門形式は食傷気味だなあと多少うんざりしていたが、第3章の是枝監督らしい子役の活躍で持ち直した。黒川と柊木の「ラブシーン」なんてよく撮ったと思う。

是枝監督がテレビで「怪物を見た人の表情を観客に見てもらいたい」と言っていたからかもしれないが、視線に着目して観ていた。第1章で安藤と黒川が病院から帰る場面の長回し、安藤が黒川に向ける視線と黒川が安藤に向ける視線がそれぞれ示されるのが良かった。また柊木から黒川への視線が常に優しかったのも印象的だった。

第1章終盤で提示される校内から聞こえてくる吹奏楽の不協和音(「怪物」の叫び声か)が第2、3章と意味を足されていく脚本はやはり見事だと思う。公園の檻のような遊具に黒川と柊木が閉じ籠るショット(何となく『メランコリア』のラストを想起させる)も2人を取り巻く環境がよく表れていたし、第2章ラストで安藤と永山瑛太が泥に埋まった電車を見つけ、その泥をかき分ける動きを車内から捉えた極めて不吉なショットも印象的だった。洪水のシーンでは柊木を虐待した中村獅童、孫を殺した田中裕子、そして安藤と永山と作中で何らかの罪を犯した者たちが雨にうたれるカタストロフのイメージができている。

こういう話だとどうしても「可哀想なゲイ」みたいなクリシェに陥ってしまいがちだと思うが、そもそも映画からクリシェを完全に取り除くことは不可能だし、映画とはクリシェを利用してそれと戯れるものだと思う。ラストの圧倒的な光と2人の駆ける動きにはそうしたクリシェを超える力を感じた。
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