よしおか

その夜の侍のよしおかのネタバレレビュー・内容・結末

その夜の侍(2012年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

評価が低めである理由が分からないくらい良い映画だった。設定も台詞も演技も繊細で、とても良い緊張感だった。

少ない登場人物の、深いようで薄いような、とても曖昧な人間関係が絶妙なバランスで、ゲーム終盤で回ってきたジェンガのよう。今にも崩れてしまいそうで、どこから手をつければ良いのかわからない。そんな緊張感を、それぞれの登場人物から感じた。でも人生や人間関係というものは、そういった絶妙なバランスで成り立っているものかもしれない。

台詞が少なめだから、それぞれが飲み込んでいる気持ちを想像できたのだろうか。もう一度観ると他の登場人物の気持ちがわかったりするかもしれない。

キャッチボールの後に「なんか涙が止まんないっす」と言っていた部下や、木島らを家にあげた、黄色いソファーを欲しがる彼女の気持ちも、もう一度観たら、少しわかるかな。

個人的には、堺雅人という俳優の演技が良かった。
テレビドラマは観たことがないけれど、わたしが観た映画ではベストだったと思う。役柄もあっていたのかもしれない。

二人が対峙する嵐のシーンには、これ以上ない程にリアリティがあり圧巻だった。公園のキャッチボールのシーンとリンクする構図もとても良かった。ずっと固定カメラで撮って欲しかったくらい。

そして、何と言っても映画のラストシーン。
レビューを観ると結末が好みでない人が多いようだが、わたしはこの映画のラストが好きだ。

木島に復讐をし、自分も命を断つと決めていた健一だが、殴り合いの後は「この物語は、あなたには関係のない話だ」と結局許すことにし、自宅に戻り留守電を消去する。

「平凡で他愛のない話がしたい」と言った健一が”平凡を築き上げるため”に一歩踏み出したように見えたし、その後のプリンを潰すシーンは、健一の抱えきれない気持ちが溢れたようで、忘れられないシーンだ。

留守電を消すことも、相手を許すことも簡単だけど、それを飲み込んで築き上げる"平凡"は簡単なものではないだろう。喧嘩の後に一瞬止んだ雨も、再び降り出している。

"健一がラーメン屋に行き、彼女と他愛のない話をして、外に出ると虹が出ている"最後にそんなシーンを付けるのも簡単だけど、実際にはそんなに単純には進まないはずだ。せめて映画でくらい、健一の抱えきれない想いに寄り添ってあげなくては、そんな監督の映画愛も感じた。

赤堀監督は、今作が初めての映画監督作品とのこと。
彼の他の作品を知らないけれど、賞を受賞するのも納得の完成度だと思う。他の映画も観たいし、この映画もまた観たい。

以下気になったことなどメモ

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⬛︎冒頭の2つのシーン

⬜︎冒頭のワンカットシーン
グザヴィエ・ドランを思わせるような後姿のワンカット。落ち着きのない主人公は、汗をかいている。八百屋でトマトを購入するが、まだ喋らない。次第に、落ち着きがなかった様子やビニール袋を持っていた理由が分かってくる。

⬜︎その後のプリンを食べるシーン
工場の作業風景を挟んで、次のシーンでプリンを流し込む主人公。一瞬、お昼休憩かな?とも思ったが、勢いよく流し込む様は、デザートとして味わっているようには見えない。それに立って食べている。そう気付いた直後に間髪入れず、すぐ2個目も平らげる。留守電が流れ、他人の家なのか?そういえば部屋には洋服や下着が散らかっていた。空き巣だから焦っているのか?とも思う。

この冒頭で感じだ疑問はのちに明かされるのだが、この二つのシーンで一気に引き込まれた。説明的ではない、すごく映画的で好きなシーン。

⬛︎車を運転しながら「金玉って動いてるんだよね。貝みたい」というこの上ない程にどうでも良い話をする木島とそれを聞かない同乗者、そして微妙な沈黙、からの事故という流れが巧みだった。

⬛︎頭と同じ、後ろから追うカメラワークに戻るシーン。

⬛︎公園のキャッチボールと同じ構図の、嵐の公園のシーン

⬛︎室内にまで響く雨の音
 「台風来るらしいよ」

⬛︎木島が女性に言いがかりをつけていたのは、もしかしたら彼なりの女性へのアプローチなのではないだろうか?

⬛︎台詞など

「溶接やってるとさ、あの光にアホみたいに虫が寄ってくるわけよ。あれ、なんで虫って光に集まって来るのかね?太陽だと思ってるのかな?まっすぐ、光に向かって飛んできたから、即死だよ。また臭いんだよこれが。食欲なくすよ。」

「平凡で他愛のない話がしたい」
「平凡というものはね、全力で築き上げるものだと思うのですよ」

⬛︎気になったこと

⬜︎「なんか涙が止まんないっす」
彼が涙が止まらなかった理由は?

⬜︎木島らを家にあげていた、黄色いソファーを欲しがっていた彼女の気持ちは?
よしおか

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