面白かった。主人公の依子が介護、パート先での理不尽、夫の失踪と病気など、同時多発的に巻き起こる苦難に苛まれ、新興宗教にすがり始めるところから物語は動き出す。特にシニア世代の見つめ難い心当たりをザラリとなぞるであろう場面の数々は、苦笑いを誘われつつ目を背けられない。
向かう先は希望か絶望か。
救いや報いの兆しに、轢き逃げのごとく突如訪れる悲劇や現実は、おぞましくも浮世離れとは思えなかった。
木野花、キムラ緑子、安藤玉恵、江口のりこ、柄本明ほか、舞台の百戦錬磨として名高い達者な役者らによる微細な芝居は、人間の壊れた部分をリアルに浮き彫りにする。軋んだ歯車が弾けるような筒井真理子の狂気は、抑制からの惑いを踏んでおり、雨中の終末は不穏よりも肩の荷を降ろした解放を感じさせた。光石研や磯村勇斗も多面的な人間の変化を台詞量に頼らず表現。時折り挿し込まれる灰色の波紋で語り合う演出は舞台的で、狂気の広がりを静かに匂わせる。
