けんけん3号

せかいのおきくのけんけん3号のレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
3.7
江戸時代、貧しくても懸命に生きている若者たちの物語。4:3サイズのモノクロの画面はなぜか美しい。カメラアングルも面白い。そして一部でカラーになるのだが、その瞬間、なんか引き戻されるような感覚で、ハッとさせられる。しかしながらこの物語の職業が、下肥買いで、糞尿を買取る職業とのこと。こんな職業があることを知らなかったし、仕事のやり方、内容にはビックリ。石鹸もない時代に素手で作業なんて、想像しただけでもゾッとしてしまう。臭いもそうだが、衛生的に心配になる。それでも農作物の大事な肥料となり、その作物が人間の食事になるわけで、その仕事が底辺の仕事とは、人間は身勝手である。しかも映画ではかなり虐げられる。それはまさに糞まみれ!それでも冗談を言いながら頑張る忠次と矢亮には清々しさを感じる。池松壮亮の上手さは安定だが、忠次を演じる寛一郎の初々しいさが心地よい。そしてフッとした仕草や佇まいが佐藤浩市にそっくりなので驚かされる。おきくを演じる黒木華も素晴らしい。意思の強さもあるが、可愛らしさも覗かせるおきくの役はピッタリ。後半の喋らない演技も素晴らしい。作品のタイトルにも含まれてる「せかい」。広い空を見上げる時、好きな人を想う時、人は頭の中、心の中など、どっかで、無限に広がる「せかい」を漠然と信じている。たとえそこに辿り着けないとしても…。日々の暮らしで忘れがちな前向きな気持ち。江戸だって、現代だって変わりはないんだ。そんな爽やかな、前向きな気持ちを抱かせてくれる作品。個人的には、なかなかの良作だった。江戸は約260年も続いた時代。学ぶものは多いんだろうな…。