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ガンズ・アンド・キラーズのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ガンズ・アンド・キラーズ(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

アメリカ西部開拓時代、人里から離れてひっそりと暮らす男がいた。彼の名は、コルトン・ブリックス。かつては、賞金稼ぎに用心棒と殺しの世界にいた男も、今では1児の父として、雑貨屋を営みながら静かに暮らしていたのだが…。

アカデミー主演男優賞俳優であり、近年はB級映画キングのニコラス・ケイジ主演作品。
近年は不動産投資失敗による借金返済のため、作品を選ばずに出演をしているが、若手や新進気鋭の監督の低予算作品に重厚な味わいを加えるスパイス的な役割を果たしている。
本作もそんな一本で、「ジョン・ウイック」と「子連れ狼」を足したような設定で描かれるケイジ版の「許されざる者」。
低予算だが、シンプルで無駄のない西部劇の佳作だ。

冒頭、賞金稼ぎ時代の冷徹な殺しが描かれた後、すっかり改心した様子で「動いている君をずっと見ていたい」と妻に見惚れる幸せな朝が描かれる。
もう、この冒頭からケイジの繊細な演技力が爆発。
眉一つ動かさず、瞬く間に5、6人撃ち殺す虚無的な瞳の殺し屋と、幸せに打ち震えるかのようにウルウルした瞳で妻を見る雑賀商のギャップ。
とても同一人物とは思えない。

ある日、自宅に1人でいた妻ルースの所に不審な4人組の男たちが訪ねてくる。
それは過去のブリックスに怨みを持つ一味だった。
ブリッグスと12歳の娘ブルックが帰宅すると家に保安官たちがおり、妻が殺害されたことを聞く2人。

娘の手前、怒りも悲しみも抑えていたブリッグスは、妻の墓を掘って埋葬した後に納屋で妻の名前が入った鞍を見て、嗚咽する。
この一瞬にして表情が変わり、涙が溢れるスイッチの入りよう。
さすがアカデミー主演男優賞俳優。

そして二度と握らないと誓ったはずの銃を手に、復讐することを決意。
元殺し屋が妻を失った悲しみと復讐への憎悪に燃える姿は、ほぼほぼ「ジョン・ウイック」。
一人娘と共に復讐のために犯人探しの旅に出る姿は「子連れ狼」である。

だが、ブリックスが好き放題やっていた時代とは違い、連邦政府の法律は復讐を認めていない。
保安官は彼を止めようとするが逆に縛り上げられて、犯人の情報を話すよう催促された。
ブリックスと娘は保安官の情報を頼りに犯人を追いかけていく。

娘ブルックが泣き真似をして保安官一行を惹きつけるようブリックスに言われるが、「今まで泣いたことがない」という娘の泣き真似が下手くそすぎて笑える。

また、怪我をさせた保安官助手の傷口を焼いて塞ぐべく、ブリックスは焚き火をしようとするが、娘ブルックが集めたのは燃えない生木。
そしてブリックスが保安官助手の傷を手当てすると「痛いから泣くのね」と言い、傷口を焼くと「お腹が空いたわ」と言うブルック。
ブルックは何も知らない箱入り娘ではなく「何か世間とズレている」と分かる何気ない演出の積み重ねが上手い。

道中、ブリックスが自分が感情の壊れた人間で「恐怖を知らない」と娘に告白するシーンがある。
亡き妻と出会い、愛を知ったと言うのではなく、妻に嫌われたり、妻を失うのが怖かったと涙ながらに語るニコラス・ケイジが切ない。
本作で白眉の名演技である。

時間をやたら気にするのもそうだが、世の中の人を見て真似をしながら学んできたと言うあたり、ブリックスは恐らく今でいう自閉症か発達障害なのだろう。

それを無表情で聞き、泣いたことがないという娘ブルックは、明らかに父の特徴を遺伝しているに違いない。
思えば、序盤で雑貨店の飴を全て色ごとに分類してしまった几帳面さ。
父ブリックスはそれを知っていたからこそ、罪悪感からぎこちない親子関係になっていたのではなかろうか?
似た者親子だが、ちょっとしたことで復讐が失敗しそうな危うさが漂う。

犯人らの潜む町に着いた父娘だが、犯人はブリックスを知っているので、迂闊に町には入れない。
ブリックスは娘を偵察に出すが、娘は捉えられ、犯人らは娘を人質にしてブリックスをおびき出すことに。

ブリックスは罠と知りながら街に潜入して、犯人グループの男たちを殺していく。
しかし、主犯の男に娘を殺すと脅され、銃を抜けずに迷うブリックス。
その隙にブリックスは主犯の男に心臓を撃ち抜かれてしまう。

もしかしたら妻の復讐を優先してブリックスは娘を見殺しにしてでも犯人をまず撃つのか?というスリルもあったが、娘を救うことを選択したブリックス。
ちゃんと娘も愛していたのだとホッとする。

主犯はブリックスに父親を殺された男で彼を殺して復讐を果たしたと喜ぶが、次の瞬間、娘ブルックが父ブリックスの銃で犯人を撃ち、父の敵を討つのだった…。

最後は、娘ブルックが死んだ父の亡骸にすがりながら、保安官との対話の中で父が妻の復讐を果たし、ならず者を倒した英雄なのだと記録するように頼む。
過去の非情な人殺しの汚名ではなく、英雄であると歴史に残すためにはどんな事実として記録して貰うかが重要だ。

保安官は両親を亡くした娘の気持ちに寄り添いながら、事実を歪めない範囲で記録を残すことを娘に約束する。

無法地帯だったアメリカが、法治国家としての道を歩み始めたころを描いた作品なのだろう。
事実をどう記録するかによって事実と裁きが変わるのだ。
皮肉だがアメリカの歴史はこうやって紡がれてきたのだろう。

残念ながら映画としては低予算のため、ニコラス・ケイジに匹敵する悪役がおらず、ドラマもアクションも、かなり盛り上がりに欠ける。

だが、設定やお話はなかなか良い。
発達障害を持った父娘の心の交流という設定はインクルーシブ社会と多様性を訴えて現代的。
元殺し屋が復讐を誓った相手は、自分が殺した男の息子というのは、因果応報な話だが、暴力の連鎖が不毛だと訴えるのは「許されざる者」と同じだ。
コンパクトな尺で、シンプルに良く出来た作品である。
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