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君たちはどう生きるかのiszkaのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.2
シアター内後方に予告から劇冒頭までずっと話している男女がおり、「こいつらをどう殺すか」なんて甚だ稚拙なことを考えていた。

2時間弱の物語が終わり、エンドロールが始まるとまた例の男女が話しはじめたが、「(こいつらという)悪意と、どう生きていくか」と思い巡らす事になった。

そういう映画だった。

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精神世界や普遍的悪意というテーマ性、そして抽象化された女性性や男性性を用いる感じは『ねじまき鳥クロニクル』をはじめとする村上春樹作品を彷彿とした。

けれども、地上の存在全てを「生き生きとしたもの」として共存させる帰着になるのは宮崎駿の信念なのかも。推測の域を超えないけれど、悪意の象徴っぽく描かれた不気味な生き物たちを、愛情込めて丁寧に描写してるのってそういう事なのかなと思った。

戦火という毒により時期尚早にこの世の理不尽さや、父親への憎しみに直面した少年(しかも裕福が故に肉肉しい現実的痛みに飢えていそうな少年)が、LSDよろしくの幻想的精神世界で悪の討伐と母親探しを試みる。
フロイトやユングの心理学が密に関わってくるんだろうけれど、知見が充分じゃないので、なんとなくしか置き換えられなかった。

子は最終的に母親を見つけ(不在になった産みの母親への愛を、現実的母親に向けられるようになり?)、悪意に満ちた世界を生きる決意をする。※悪の討伐は果たしていない。
2人の母親も子の継承を完了させ、ナツコからも罪の意識が消え、それぞれの世界へ帰ることが出来た(ように感じた)。

戦争という悪と暴力に塗れた時代はあの塔のように崩壊したが、これからの時代にもそれらは逃れてきた鳥のよう付き纏う。
そんな中で少年は、希望という石を持ちながらそれらに了承するという生き方を選んだ。

当時よりも、そこにあるはずの悪意がより一層可視化されづらく、件の少年のような自傷行為がある種の時代性を伴ってしまった現在。
見えない悪意に対して、自傷行為をしても満足しきれず迷子になりやすいこの現在で、果たしてどう生きていくのかという問いを渡された気がした。

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という哲学的な思考のしがいがある映画だったが、個人的にイマイチ消化不良な気がしたのは、映像的カタルシスの不足に尽きると思う。

勿論ジブリ作品ならではの活力に溢れてはいたけれど、クライマックスである塔の崩壊と脱出が個人的にはしょぼく感じた。

これはどこまでいっても文学ではなく映画なのだし、大きなスクリーン上の映像で黙らせてほしい感は否めなかった。


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memo

作家達が何より追求しているものは、絵の連なりの運動に他ならないからだ。それがなければ、母の物語も実在人物との照応も安易な記号操作に過ぎず、何の面白さも喚起しない。

https://tokion.jp/2023/07/28/review-the-boy-and-the-heron/
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