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アイスクリームフィーバーの中のレビュー・感想・評価

アイスクリームフィーバー(2023年製作の映画)
4.5
「幸せか幸せじゃないかなんてどうだっていいから。問題は、わたしか、わたしじゃないかだから」

これは映画ではない、ていう叫びから物語が始まる。
映像の隅切り、断続的な映像と音楽の使い方、非現実的にも思える鮮やかな色使い、美しすぎる俳優たち、、、
観客が登場人物に感情移入しすぎひんよう意図的に違和感を残す調整をしてる点が、映画ではない、を表現するアート映画的作品かと冒頭5分間くらいは感じてた。
けどそうじゃなく、104分飽きさせへん脚本の工夫、人物それぞれの葛藤、直線的じゃないセリフと演出があって、ちゃんと映画というか物語になってる。だから、これは映画ではない、の解釈は、これを観客それぞれの物語として受け取ってよってことなんかな。
なんせビジュアルの良さは圧倒的。明らかにそれ専門の人が作ってる。

原作で最も主人公を象徴する段落を、映画用にアレンジして菜摘が独白する。原作の主人公は明らかに陰キャで、それすらも自覚してない感じやったから、それを吉岡里帆が演じることに原作読者としては若干の違和感があったけど、勘所は押さえてたわ。そもそも吉岡里帆って綺麗ではあるけど素は根っから明るい感じではないんかな、そう思わせる演技やった。
「家に帰って夜になると、かちかちになった足の裏を親指でちからいっぱい押しながらわたしはその日にみた彼について覚えていることをすべて手帳に書きつける。少し意地が悪そうな彼の一重まぶたの目が好きで、でもそのよさをどうやって表現すればそれをちゃんと言い終わったことになるのかがわからない。こういうときに比喩みたいなものがぱっと浮かぶといいのだけれど、わたしにはよくわからない。だから、切れ長の、とか、意地が悪そうな、とかそういう何も言ってないのとおなじような言い回しでしか記録することができない。でもそれも悪くないなと天井をみながらそう思う。うまく言葉にできないということは、誰にも共有されないということでもあるのだから。つまりそのよさは今のところ、 わたしだけのものということだ。」

アイスクリーム屋さんで働く菜摘は、ウォンカーウァイ監督の恋する惑星の中で、惣菜店で働く金髪女をモチーフにしたんやろうか。ガラス越しの映像とかネオンカラーとか、楽しそうに働いてる一方で根本的な虚無を抱えてる感じとか。

夕立になりたい、て言う佐保。菜摘が佐保を忘れられなくても、夏はまたやってくるって言い放てる佐保。幸福を幸福のまま終わらせられへんのやったら不純物が混じるより先に思い出にしてしまう発想か。非現実的生き方な気もするし現実的生き方な気もする。冷たいようにも優しいようにも感じる。まあ普通の精神じゃ幸福の絶頂でその幸福を自分から終わらせることなんてできんよな。

主要人物の誰もかれもが美しすぎや。中高生の頃同級生におったら、一方的に好きになって学生生活狂ってまう顔してる。美しすぎて物語に集中できんとこはあるけど、楽しい気分になるからええか。

渋谷恵比寿近辺でかなり撮影してるはず。街と人の関係を描いてるから、ある程度同じエリアで撮影したんやと思う。

あと、銭湯の片桐はいりは3月の情熱大陸で映ってたやつやな。たぶん。
泥棒猫の娘と、負け犬。
原作成分5パーくらい。
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