マーフィー

ビヨンド・ユートピア 脱北のマーフィーのレビュー・感想・評価

4.3
2024/01/27鑑賞。

北朝鮮からの亡命を支援する韓国人牧師に密着したアメリカのドキュメンタリー。
そして中国、ベトナム、ラオス、タイを行く。

北朝鮮情勢や脱北について、不勉強で全く知らなかったものだから、
脱北の方法や他国の北朝鮮との関係などは初めて知ったし、時々挟まれる北朝鮮情報のひとつひとつが衝撃的だった。

まず脱北するには単純に北朝鮮から韓国の国境を跨ぐのだと思ってた。
北緯38度線をどうやって抜けるのか…みたいなところが大きなポイントになってくると思ったら全然違うんですね…私の想像力甘すぎるやろ......。
中国に抜け、ベトナム、ラオス、タイと渡って行く。しかも北朝鮮から出ても国によっては強制送還されるリスクもある。
文字通り命がけの脱北に子どもや高齢者までもが挑む様子そのものが、北朝鮮の生活環境の劣悪さを物語っている。

また北朝鮮の情報統制や洗脳とも言える操作はそれ自体も恐ろしいけど、
脱北者の、植え付けられた価値観と現実との違いに戸惑う姿が何より「巨大な仮想刑務所」北朝鮮の恐ろしさを示していると思う。
「アメリカも同じような状態」「アメリカ人は人を殺したくて仕方がない人たち」と教えられている北朝鮮の国民たち。
私から見ればめちゃくちゃな嘘でしかないが、幼い頃からそう教育された人にとってはそうでしかないと思うだろうし、
逆に「私が今見ているこの作品の惨状は資本主義社会の巧妙なプロパガンダで、実は北朝鮮は50年先の未来のような発展した生活をしている」みたいな可能性はないだろうか?と一瞬妄想してしまった。
そんなことはなさそうだけど、ある意味北朝鮮の国民はそういうレベルのことを教育でもって叩き込まれているのだと思ったらより恐ろしく思う。

特に脱北した家族の祖母からは、北朝鮮の社会で育った人の考え方が顕著に分かる
子どもたちもそう。ただ子どもたちは変わっていく柔軟性があるが、祖母には流石にそれはなさそう。

「金正恩のようなふくよかな体型の人が好き」
って人の好みまで変わるのな...

時々挟まる北朝鮮情報。
時代が間違っているのではないかと思ってしまうほど現実離れした惨状。
水が貴重だから貯めて少しずつ使うとか、人糞の肥料としての再利用とか、腐敗した死体の話とか。
死体の手足がちぎれるという話がゾンビのようでとてつもなく現実味がない。でも現実に起きていることという。現代社会とは思えないほどの地獄。


脱北が進むにつれて、少しずつ料理が充実していって、皆の笑顔も自然と増えていくのが印象的。
しかし生きるために脱北できたことは良かったけど
「故郷が恋しい」という気持ちは皆が一様に持っているようだった。
幸か不幸か、日本を出たことのない日本人の私はこういう気持ちを持ったことがない。ありがたい話だと思う。
どんな劣悪な環境といえど、生まれ育った故郷を捨てなければならないというのはどんな気持ちだろうか。
まだまだ私が知らないことは沢山あるなと思った。
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