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夜明けのすべてのkakakaのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.1
ワイパーに散らされ、街灯にきらめくフロントガラスの雨粒を背景に浮かぶ「夜明けのすべて」のアバンタイトルが夜空にきらめく星を想起させ、物語の始まりを予感させる。
しかし序盤、「夜明けのすべて」というタイトルがなんだか咀嚼しずらい。
日常的な言葉の組み合わせだが、絶妙にとらえどころがなく、加えてPMSに悩むヒロインとパニック障害を抱える青年という二人を主役にそえる物語とリンクしないのだ。
しかし、ストーリーが進むにつれ、そのタイトルは静かにゆっくりと光を放つ。
持病に悩む者、身内を失い喪失感を抱える者、人は生きている限り思わぬ悲しみ、苦しみの矢面に立たされることはある。悩み苦しみの無い人間なんていない。
劇中の、夜明けの意味をなぞり、暗闇があるからこそ、星に気付くことが出来、
暗闇の先の広がりを想像することが出来ると。
人の悩み苦しみの本質を理解し、寄り添うことは難しい。が、その人を見つけた時、優しい気持ちを持ちたいと思うのだ。
プラネタリウムに集まった人々のシーン。人々の視線から頭上にパンすれば満点の星空で美しい、と感じさせることは容易なのに、それをやらない。じっと役者達の表情をとらえるのだが、ちゃんと美しい星空を想起できるのだ。
三宅監督は人の心を信じているのだろう。
この演出があるからこそ、星の一つ一つが無数に輝き星空を形成するように、同じく無数の人生一つ一つに輝きがあることを無言で知らしめてくれる。これこそ映像のマジックではないか。
そうして夜は明け、またいつもの日常が始まる。静かだが、明日の先を少しだけ照らしてくれる優しい作品でした。
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