むーん

夜明けのすべてのむーんのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
夜の中に佇む人たちを包摂する関係性を誠実に描いている。PMSを抱える主人公がパニック障害を抱える山添というキャラクターに対して『お互いに頑張りましょう』と言ったときに『症状はそれぞれ違うものだから』と拒絶されるところが僕としては印象的で、『社会的弱者』や『マイノリティ』というラベリングの中でも分断の意識はあるという点を表現できていたと思う。
ただ、ケアの理念に裏打ちされたような互助を体現するコミュニティをユートピアとして表現することに対して、個人的には一抹の違和感を抱く。これが主人公と山添との二者関係に限定した物語であったなら、こういった感覚はなかったかもしれない。しかし、彼らを包摂する職場の環境は、外側に広がる社会--たとえば主人公が最初に辞めた勤務先であったり、ジムでイライラをぶつけてしまった相手であったり--をオミットして出来上がった空間ではないかとも思うのだ。
こうした『共感』のモデルは、近親者を失った者たちの互助会の場面が描かれるところまで含めて、この作品を通底する一つのテーゼだ。
もちろん、互いの苦しみを理解し合える者たちが相互にケアを行う環境が出来上がるのは一つの理想ではある。社会という構造も、そうした『夜明け』へと進んでいくことを願いたい。ただ、現状としては、やはり彼らに対して不寛容な人間はおり、その者たちもまた、その者たちなりの苦しみがある。そうした不理解の壁を乗り越えるビジョンが提示されない限りは、分断の溝は埋まらない。共感できない相手に対して、共感はせずとも理解は示すという態度を表明しつつ、互いを害さない距離感を保ち、かといって互いの存在を見ないふりはしない、という関係性の方が、実現の妥当性があると考える。
また、こうしたコミュニティが形成されたとしても、やはりそこまで辿り着けずに『夜』から抜け出せない者もいるだろう。他人から傷つけられたがために他人との接続を拒絶することもあるだろう。そうした『孤独』を肯定する回路こそが、究極的には一人きりでしか存在し得ない人間という存在それ自体を受け止めてくれるのだと思うのだが、どうだろうか。
むーん

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