薫

夜明けのすべての薫のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
やっとやっと観られた。
思い返すだけで涙がじんわり出てくる。

ずっとこの時間に包まれていたいと思った。
映画を観て心地よいと言うことはあまり無い。
何かしらの痛みを伴う感情の動きによってストーリーを構成していくことが映画の醍醐味だと思っているが、
それで言うとこの映画の動きは揺らぎだ。
波にならない波紋の様な日常が、積み重なってしかし確かに変化していく。

初めは『優しい』と感じた。
しかし多くの登場人物の背景には痛みがあり、その痛みがあるから他者に手を差し伸べられると言うことを改めて表現している所、そこに沢山の観客が魅了されているのではないかな。

監督のインタビューで、優しいのではなく自分の後悔を繰り返したく無いというイメージです。と言う様なことを言っていて、ひとくくりに『優しい』ではなくて、更に深度のある感情表現に感動を覚える。

人はただ優しければいいわけではないと常々思っていることが具現化された気持ち。
ありがとうございます。

音の演出も素晴らしい。
ある登場人物が以前より変化したと思わせる行動をした場面で、完全に音が無くなるカットがある。
なんと映画的で巧みな演出なんだろう。
藤沢さんと山添くんの声もとてもいい。

彼らが積み上げた時間をわたしたちがたった1、2時間で共有できてしまうことが映画の持つ力であり、この映画では特にそれが顕著だった様に思う。
少し前にhereという映画を観た時に感じた、観客と共にストーリーが進む感覚と言うか、
んー表現が難しい。

思いっきり私的なことだけれど、
わたしはこの映画を素敵だなぁと心から思う反面、自分はこんな風に他者に接することが出来ないかも知れないと思うドロっとした感情も覚えた。
そんな自分と向き合わされる作品でもあった。

とにかくスコア5点中の5000点!

久しぶりにプラネタリウムが見たくなって、
映画を観た午後に娘を後ろに乗せて遠くまで自転車を走らせたのに、既に上映終わっていた思い出までがセット。
薫