きゅうりのきゅーたろう

12日の殺人のきゅうりのきゅーたろうのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.8
10月12日の夜、友人宅から帰宅途中の21歳のクララが何者かに生きたまま焼かれ殺されるという凄惨な事件が発生する。捜査を開始した警察はクララの関係者を中心に聞き込みを始め、恋愛に奔放だったクララの幾人もの過去の男性をあたっていくがいずれも犯人とは断定できなかった。フランスで実際に起こった未解決事件をもとにしたお話。


『悪なき殺人』にどハマりしてドミニク・モル監督の新作として公開当初気になってたけど見れなくて今回たまたま見られて良かった。面白かった。

◾️男女の溝
この映画は謎解きサスペンスではなく、『カテゴリに分けてレッテルをはることへの警鐘』だと感じた。
普段の我々の生活でもそうなんですが、複雑な現実をメタ認知することは非常に難しく、どうしても簡略化して物事をとらえることは誰にでもあります。
しかし、そのことによって逆に現実が見えなくなることって往々にしてあると思ってますがこの映画はそのことを実に顕著に描いています。
「チャラいから怪しい」「女を殴るから怪しい」「夜中に被害者の墓におるから怪しい」「女だから殺された」などなど。
警察として捜査上アタリをつけることは妥当とは思いますが、それがいきすぎた結果マルソーは捜査を混乱させてしまいます。
『男女の溝』は現実として存在はそりゃすると思いますが、かといってその溝を前提認識として話を進めてしまうとガバガバな現実認識となってしまいます。

◾️理解できないものと対した時のストレス
これは警察の業とも言えそうですが、自分とは全く違う考えの者やそもそも倫理的に道に外れて話が通じない者と接するときのストレスがむちゃくちゃストレートに本作では描かれています。
これを「アタオカ」と片付けてしまえば、それ以上の理解への意欲は完全にストップしてしまいます(上のカテゴリ認知)。

◾️ファーストショットとラストショットの素晴らしさ
本作は競輪場?で黙々と自転車を漕ぐ主人公ヨアンのショットから始まりますが、これは『同じ場所』を延々とまわり続けており、この先のゴールの無い堂々巡りを示唆するものとして秀逸と感じました。
また進行方向側から追われるようなショット(どうやって撮ってるんやろ)も何か観客が犯人の構図となっていて、上の認知の仕方を(無自覚な加害も含め)糾弾しているかのように錯覚させています。
そしてラスト、ようやくヨアンが公道に出たことで加害を自覚して変われることを表した良い終わり方だったと思います。