甲子園の魔王

アイドルマスター シャイニーカラーズ 第3章の甲子園の魔王のネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

「豚肉は、もう…」

映画を観終わって『シャニマス』の舞台となっている聖蹟桜ヶ丘を巡礼してきました。
…というか、今まさに聖地のひとつであるゆうひの丘の頂上の東屋でこのレビューを書いてるんだけど。見晴らし良くて最高です。

それはどうでもいいとして、とりあえず1.2.3章と通して観てきたシャニマスオタクの正直な感想を一言でいうと、「みんな!原作をやろう!!enza版の方な!!!」になってしまうんだけど…初見勢に優しいつくりじゃないから導線として機能しないんじゃない?って不安があるんだよなあ…。

以下は3幕の感想でもあり、シャニアニ全体の感想でもあると思って下さい。

【よくなかったところ】
・誰向け?
メディアミックスされたコンテンツに「原作と矛盾してるやん」とか「ここ解釈違いだわ」とかツッコミを入れる原理主義者が沸くのは仕方ないんだから、どうせなら原作をやってる人しか分からない要素やエピソードはいったん全て捨てて完全新規向けに振って欲しかったな。
かといって今作がファン向けかと言われるとこれも違うと思う。ファン向けという言葉が便利だからもっぱらそういう評価を受けている訳だけど、ファンが一番喜んでいるのはシャニマスがアニメ化されたという実績に対してであって、今作の脚本・演出等がシャニアニの最善の形だと手放しで喜び歓迎している人は、残念ながら自分の観測範囲には見受けられない。
俺もそう。
アニメ化自体は喜ばしいし、歌ったり踊ったり喋ったりわちゃわちゃする真乃たちを観られただけで感無量ではある。でもそれは内容の評価とは一切関係ない付加価値みたいなもんの筈であって、本当にファンが欲しかったのは「これが俺の好きなシャニマスや!」と新規層に布教できるような、もっとキャッチーなモノだったように思う。

・薄味すぎるシナリオ
シャニマスの魅力を伝えるときに“実在性”という表現がよく用いられ、(個人的にはこの表現自体クリシェと化し揶揄として使われる場合もあるので好きじゃないんだけど)確かに他のフィクション作品ではほとんど言及されない部分をあえて描写することで「あるある!」的な親しみが沸いて身近に感じられるし、普段無意識に触れているモノの中に今まで見落としてきた美しさを発見するキッカケを与えてくれるのもシャニマスの大きな魅力的特質だと思う。
が、今作ではその実在性への意識がフィクションとしての面白さを抑制する枷として働いてしまっている。
そもそもシャニマスの真の売りは“解像度の高さ”と“攻勢なシナリオ”であって、実在性云々はその副産物じゃないの?と個人的には思う。
しかし今作のシナリオはかなり守りに入ってしまっている。大きなハプニングやファンタジックな事が起きることのない、凪のような物語。シャニマスのリアリティって、そういう部分の話じゃないだろ!毒にも薬にもならない作品にしたくないって言ってたじゃないか高山(シャニマス制作プロデューサー)!

・抽象的な語り口
もうずうぅ〜〜っっと「輝きたい」って話をしとる!それを具体的なエピソードに交えて見せてくれたらまた変わっただろうけど、「どうしたら輝けるんだろう……」と口にするのみなので凄く表面的に見えてしまった。
例えば、enza版の『Catch the shiny tail』も今作同様自分がセンターに選ばれた事に悩む真乃の物語なんだけど、『Catch the shiny tail』の方はソロ仕事をきっちりこなす灯織や緊急事態に際しててきぱきと対処するめぐるの姿を見て徐々に真乃の中にモヤモヤが溜まっていく過程がしっかり描写されている。そして「自分は二人と違って特別なものがない」と真乃から悩みを打ち明けられたプロデューサーも、何故真乃をセンターに選んだのかという問いへの答えをヒントとして、気付きを与える形でしかしハッキリと提示している。その後の灯織とめぐるとの会話中の「イルミネの真ん中じゃなくて、私達二人の隣に立っていてほしい」というセリフも「そこまで言われちゃしょうがねえなあ〜!」と思わせるパワーがある。いや真乃はそんな言い方しないが…。ともかく、アニメ版にはそういったやり取りがなく、終始ふわふわした掴みどころのない会話に思えてしまった。プロデューサーも抽象的な事しか言わないから、全然アドバイス出来てないように見えた。

・ブツ切りのライブ
イントロから始まり、サビに近付くにつれてテンションが盛り上がってきたところで突如舞台裏に回るカメラ。なんでじゃ!!見してくれ!!
一話24分のTVアニメならOPを抜いても22分30秒は使える訳で、ゲームverで考えて一曲2分前後×8曲なら合間に舞台裏の描写入れても収まりきるやんけ!
MCパートもやるならもううたプリの劇場版みたいにストーリーは省いて、徹底的にライブ公演として見せる方向性のほうが効果的だったんじゃない?

あとこれは批判するほどでもないけど、やっぱりEDはボーカル付きの曲をちゃんと使ってくれるとよかったなー。本放送でどうなるかどう思うかは知らないけど、1話ごとに流れるスタッフロールは結構我に返ってしまう時間だった。俺を一人にしないで…。


【よかったところ】
・ライブシーンの動き
ブツ切りすんなと文句言ったばかりだけど、それは単にもっと観ていたかったからです。同じ振り付けであっても一人一人違う所作から性格を表現できるのはモーションキャプチャーと3Dの強みっすわ。特に、やっぱ放クラ強いわ。言う事ねえわ。果穂ちゃんなんてジャンボリミッキーくらい暴れ回ってたし。それを追うような智代子のダンスも元気いっぱいで、ステージ上でお互いを励まし合っているような感覚をおぼえた。樹里ちゃんの足も高く上がっていた。『太陽キッス』最高や!

・日常の動きと表情
これも3Dの強みを感じた。3Dって表情固いイメージあったけど、細かく震えたり呼吸を感じたり、むしろ得意分野だったのではと考えを改めた。
ドアップの真乃ちゃんが可愛くてどきどきした。同級生だったらその夜寝れないね。なんか肌着のシーンまであったし。おいおい!
他のシーンにおいても、引っ込み思案というか、大人しめな真乃ちゃんの性格を立ち方や体の捩り方等の体癖で表現しようとしているのが分かった。俺が守ってやらなくちゃ!!

・合宿(主にカレー作り)
ここは全体的に良かった。合宿経験済みの放クラがうっすらマウント取ってきて「原作知らん人に伝わらん話すな」と思わないでもなかったけど、また来られた事に喜んでいる姿がアイドル活動を全力で楽しむという放クラらしさを感じられたのでオールオッケー。あれこいつ放クラに甘くないか?
シャニアニは基本ずっと漠然とした悩みというかモヤモヤを抱えている静のシーンが多かったから、こうやってみんなでわちゃわちゃしてるシーンは貴重。こういうのでいいんだよ。もっともっとハジケてくれてもいい。アイマスはそれが許される。チュパカブラがどうこう言ってる仲間もいるんだから。
あ少しずれるけど合宿シーンに絡めて、他の人の感想みてるときに「なんで廃校のプールに水張ってんだよワロス」みたいなツッコミを見かけたけど、それは宿泊施設だからだしモデルの泊まれる学校さる小もプールに水はって使ってるんで別におかしくないぞ!

・原作から続いている各キャラの関係性
これはファン向けであり、かつ新規を原作に誘う要素にもなり得る良い塩梅だった。
一番地続きの関係性を感じたのはアンティーカ、特に咲耶とイルミネ3人の会話シーンが分かりやすい。感謝祭を経た世界線の、アイドルとして精神的に成長した咲耶が見られたのは嬉しかった。

・最後に『Multicolored Sky』を流す
いつもライブ終わりに流れる曲。曲の力ではあるんだけど、これ聴くだけで寂しく思えるので流したのは絶対に正解。

・追加組のチラ見せ
推しユニノクチル登場。シーズやコメを出すとややこしい話になるし関係性が出来上がるまでで1シーズン使うことになるので一旦ノクチルまでに留めたのは良かった。
『Straylight.run()』と『天塵』にそれぞれのWING編をちょこちょこ混ぜてアニメ化してくれたらもう俺なんにも言わない!!!!俺の望みを叶えてくれ高山!!!!天塵天塵天塵〜!!!


……という訳で長くなっちゃったけど、振り返ってみるとよくなかったところはこのアニメの舵取りの部分で、よかったところは細かな描写の部分にあたります。

TV放映されたらまた内外から色んな感想が飛び出すだろうけど、「これ原作はどんな感じなんだろう?」と興味をもってくれる人が一人でも増えてくれたら、俺はやってよかったと思うし、ファンとして嬉しい。
もしここから先をやる力があるなら、次はもっと明るく楽しくポップで間口の広い作品である事を願います。俺の好きなシャニマスをみんなにも好きになってほしいからね。

とにかくもっとハジケてほしい!
いっそのことガラッと変えて、ロボットモノの…SFにするとか……あれ…?アイマスでロボット…??
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