ISHIP

バカ塗りの娘のISHIPのネタバレレビュー・内容・結末

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

僕はこの物語の舞台である青森県弘前市の生まれである。よく知っている場所が映っていたし、津軽塗のことも知っている。知っている…訳だが、どちらかと言えば当たり前にあった、という認識で、正直言えば全く詳しくはない。小学生の頃だったか、津軽塗について学んだことはあるような気はするが、どのような工程で作られ、そもそも漆というのは一体どういうものなのか、全くよくわかっていない。地元に住んでいた人間ですらその体たらくなのだ。僕が無知すぎるという懸念はあるが。
数年前公開の「いとみち」であったり、青森を舞台とする映画は以前に比べ格段に増えている感覚がある。まだ見ていないものの、こないだ公開されていた「658km陽子の旅」での主人公も弘前出身という設定だとか。不思議なものだがそう言われると足を運んで映画を観たくなるものだ。
で、この映画なのだが、良いところは、弘前の四季で時間の経過を描いているところだろうか。岩木山に雪が積もっていないカットで、ああこれは夏なんだな、と理解出来る、そういうカットはあった。また、お椀を2人で塗るシーンに時間を使ったこと。これは良かった。
あとは…うーむ。どうだろう。僕にはよく分からなかった。どうにも突っ込んでしまいたくなる展開が多いように思うことと、なぜ津軽塗というテーマを選んだのか、僕にはそこがピンと来なかった。また、家族の物語として帰結させようということにしても、祖父の死によって家族が集まることが出来ました、みたいなこと以上に何を描いたのか?僕にはよく分からなかった。津軽塗という、家族、そして文化その両方の継承を上手く描けそうに思える題材を選びながら、そのどれもが中途半端に思えてならなかった。父は、津軽塗で食べていこうとすることがいかに難しいか、主人公には分からない、と言うセリフはあった。また、どうせ売れない、と嘆くことも。実際、それは深刻な問題だと思う。年に数回帰れば良い方の僕ですら、津軽塗の商品を扱う店の少なさは年々実感するところだし、ましてや全国的知名度も低いだろう。素晴らしいものではあるが、絶滅に瀕しているんだと思う。でありながら、父の言葉を借りれば、「手伝いしかした事の無い素人」である主人公のみやこは、結局1人であのピアノの津軽塗の装飾をやり遂げてしまう(時間はかかっていたが)。田舎であり、いわゆる「じょっぱり」気質の津軽の職人である父が、たしかに娘に手取り足取り教えるようには思えない。思えないのだが、みやこの津軽塗をやってみたい!その気持ちで乗り切ったように見える。更には、そのピアノが海を渡ったところで評価される、というところもなんだかよく分からない。そんな簡単な世界じゃないと思うことと、なぜ評価された先が国外である必要があったのか。海外からフックアップされて評価が高まるってこともあるだろうけど…うーん。なんでオランダなんだしかも。オランダ人が観光に選ぶような土地とも思えないが…実際にそういうことがあったのかな?何が言いたいかというと、僕が思い違えてただけと言えばそれまでだしミスリードしてるのかもしれないが、これは家族、そして文化の継承の話としてはあまりにも弱くないか?ということ。
また、脇を青森出身者で固めてはいるが、主要人物の津軽弁は正直まったく津軽弁と呼べるものでは無い。かなり難しい言語なのだと再認識した。と同時に、言葉にこだわれるだけの時間を割けない大人の事情みたいなものが見える。いとみちは駒井さんが青森出身者だったのは大きかったのだろうが…うーん。これだけは言っておきたい。父をおっとう、母をおっかあ、とか呼ぶやつ青森の老若男女一人もいないから。とっちゃ、とかだろせめて。おっとうって。時代劇かよ。
あとは、さっきも言ったのだが、なんかツッコミどころが多い。ディテールが雑。何でピアノに塗ることにするのかの過程とか、自治体にOKされるくだりとかいくらなんでも雑すぎる。学校への不法侵入って楽しいシチュエーションになりそうなのに全然ならない。なんなんだ。あと、母と主人公のやり取りのカメラの使い方が僕にはよく分からなかった。
あと触れておきたいのは、兄と鈴木の関係。弘前がパートナーシップ制度?を導入していることは知らなかった。いい街だ。だけど、どうして彼らをその関係性としたのかということ。これ結局は、父の仕事を継がずに国外に行く兄を作りたかっただけなのではないかと思えてならない。弘前市はそういうところもあるんですよ、と出したかっただけ?とも。あいつらロンドンでどうやって過ごしてるんだ実際。
弘前出身者である僕がケチをつけているだけなのかもしれないが、ただ少なくともディテールの雑さや、津軽塗という題材を取っておきながら、そこから何を受け取るのか、って部分の弱さはあると思う。

と、書いて色々と思い出してみたのだが…この映画、継承の物語では無いんだな、という結論に至った。主人公は、漆は続ける、と言ってはいるが、この家を継ぐとは一言も言ってないんだよね。つまり、やりたいことが分からなかった主人公がやってみたいのことを見つけて、自分の道を開いた。そうして自分の道を決めていく息子、娘の姿を見て、父は家を継がせようだとかいう考えから解かれていく、そういう話ってことなんだよな。それは、父自身も津軽塗を続けるということなのかもしれない。田舎や、伝統文化には、継がせるとか地元に無理に残させようとするんじゃなく、新しい考えや想像力ややりたくさせる気持ちを呼び起こす何かが必要ってこと?まあそうなんだろうとは思う。たしかに。
ISHIP

ISHIP