脳内金魚

バカ塗りの娘の脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

テーマも悪くないし、作品自体も全体を通してすごく悪くはないのだけれど、若干風呂敷を広げすぎて蛇足感が拭えない。全体的に散漫な印象。惜しい。テンポ感が悪かったかな。原作ありと言うことだが、もう少し尺を短くして美也子と父にフォーカスを絞った方がよかったのでは。

伝統工芸の後継者問題、地方の過疎問題、LGBTQ、親子関係など色々詰め込まれていた。単に伝統工芸の若い担い手がいないというだけでなく、田舎ゆえに「男(長男)が家を継ぎ、女は嫁に行く」と言う考えが都会よりも根強いからこそ、美也子はあくまで「手伝い」扱いだったのだと思う。嫁に行くのだから、家業を継がない(継ぐ必要がない)みたいな。だから、美也子は「手伝っている」は分かるのだが、何故美也子は漆塗りをやりたいのか、その理由がいまいち観客に伝わらない。父の横で仕事を手伝う以外に自己研鑽するでもなく、勉強するでもないし。
原作は読んでいないので分からないが、半端に兄の同性婚の話を持ち込まず、美容師(メイクアップアーティスト?)としてやっていくので家を継がないという程度にぼかしておいた方が、より美也子の置かれている状況がクリアになったのでは?と言うのが正直な感想。その点でも、美也子の継ぎたい動機が曖昧になってしまっている。

後半からやっと(正直本当にそう思った)美也子(話)が動き出すのだが、上記の理由からどうしても彼女の行動が行き当たりばったりという感じがしてもどかしい。中盤、おばあさんが「体調管理も仕事のうち」的なことを言うが、正にそれ。場当たり的に見えるゆえに、体調を崩して作品を床にぶちまけるとか、正直繊細な漆器を扱う上でどうなのか?と思ってしまった。
個人的には、グランドピアノの大屋根って音の響きに関係するものなので、それを楽器に関しては素人の美也子が(よりによって音が反射する内側に)改変を加えることには違和感。学校にあるものなのでもちろん大量生産品ではあるが、ピアノも長年職人たちが研究しベストの形や仕様を見つけたもの。それを同じ半人前とは言え「職人」であるはずの美也子が、思い付きだけで弄ってしまうのは違和感が拭えなかったかな。多分、わたしの中で一番ネックになったのはそこかも。
正直、終盤は「まだあるの!?」となりました。

「次世代への職人技の継承」と言う明言テーマなら、『青いカフタンの仕立屋』や『高野豆腐店の春』の方がよく出来てたかな。後者とは、東北人と関西人のテンポの違いもあるのかね。同じ「娘の後継者」でも、春に比べてやっぱり美也子はまだまだ甘い子供だなと思ってしまう。もちろん年齢の違いからくる人生経験の差はあるんだけど。

うーん。細かいところをつついたらきりがないのだけど(不法侵入とか)、その欲求に負けて突っ込んだらダメなのよね。そう考えると一種の雰囲気映画なのかも。とにかく「惜しい!」その一言に尽きる。
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