Kachi

ミッシングのKachiのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.5
異なる規範の中で葛藤する砂田(中村倫也)の立場を追体験することが本作の一番の収穫かもしれない…

石原さとみ主演とあって話題作の本作。失踪した娘の行方を一心不乱に探す様子は、画面越しに切実に伝わる。感情の起伏が激しい沙織里の演技自体は、予告でも何度となく流れており、良い意味で観客が「決して当事者の立場にはなれない」ことを印象付けている。経験した者しか感じ得ない不安と怒りと後悔と理不尽を一挙に引き受けたような、感情の忙しさそのものを体現したような人物として描かれている。

そのような激情な沙織里と彼女を支える夫の豊。その対極にいる無関心なその他大勢。この間に立って最も倫理観を揺さぶられ続けていたのが、テレビ局の報道マンである砂田だ。

砂田は、テレビ局の出世レースというゲームに違和感を抱き、どうしたらテレビ局という場で自分の理想とする報道を実現するかを求道する人物であった。

本作は、単に視聴率を追いかけるマシーンと化したテレビ局の報道の在り方に批判的なだけでもなく、砂田のような正義感の強い人間が最終的に報われるわけでもなく、現実をまさにそのまま切り取ったような表現描写に終始していた。

悲しい想いをしている家族に寄り添うという自身の倫理観と、何か有力な情報を得るために視聴率を確保せねばならないというプレッシャーとの板挟みで、絶え間ない矛盾と向き合い続ける役柄であった。

彼の立場に寄り添えば本作は悲劇であろう。ただ、少し引いた目線で見れば、彼の立場は滑稽な喜劇に映る。そんな風につい思ってしまった。(アザラシはそう簡単には撮れない)

本作の着地には、色々物申したくなる人もいるだろうが、私は納得だった。この着地だからこそ、本作はMissingなのだ。
Kachi

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