うーたん

きっと、それは愛じゃないのうーたんのネタバレレビュー・内容・結末

きっと、それは愛じゃない(2022年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

Filmarksのオンライン試写で鑑賞いたしました。

”運命の人を探している”タイプのドキュメンタリー監督が隣家の幼馴染のお見合い結婚に関するドキュメンタリーを作成していく中起こるドラマについての話でした。


まずは良かったと思った点についてですが、イギリス生まれイギリス育ちであるにもかかわらず、日々「何人?」とルーツを聞かれたり、テロが起きるたびに得体のしれない申し訳なさを感じてしまったり、といったカズの内面の吐露から感じられる、単一民族国家である日本でもありがちな排他的なコミュニティでの生きづらさの指摘と、独身女性の卵子凍結や受精卵凍結の現状についての話でした。

正直な感想、全体としてあまり好みではありませんでした。
というのも、恋愛映画自体が好みではないのではなく、単純にこの映画に対して面白くない、と思ってしまったからです。以下、好きになれなかった理由について述べていきます。

「ドキュメンタリーを撮る」ということがもつ問題点やその意義についてどう扱っているのか、ということに対して、あらすじや予告を見た段階から非常に気になっていました。この点に関して、ドキュメンタリーを撮る最初のシーンにおいてカメラを向けられた側が演技をしてしまう、普段通りのふるまいではなくなる、という描写があり、その点はすごくいいと思いましたが、その次の瞬間にはまるでカメラが介在しないかのように振る舞えている部分にすごく違和感を覚えざるを得ませんでした。(映画の尺の都合上仕方のない部分ではあると思いますが)次に、主人公であるゾーイが自分の持っている意見とは真逆の価値観についてのドキュメンタリーを撮るわけですが、本人はその価値観を十分に尊重したつもりでいながらも私情を大いに挟み、挙句の果てには自説を強化しうる構造になっていながらもお涙頂戴のあたかも良いような終わり方になっており、非常に悪質な意見の誘導をしているように思えました。(その結果としてカズや家族、一部の観客には非常に冷ややかな目線で見られることになるのですが)。これは劇中劇としても褒められたものではない、と思いました。ドキュメンタリーを作る側としてその姿勢はいかがなものかと……

また、このような劇中劇のもつ悪質さ、具体的に言うならば「見合い結婚は古く、もう時代にそぐわない価値観・風習である。一方で恋愛結婚というものは問題を抱えつつも無条件に素晴らしいものだ。」とする言説をこの映画全体としても唱えているように思えてしまう点がよくないと感じました。
主人公ゾーイは、隠しきれない自分の気持ちをそれとなくずっとアピールし続けていたらいつの間にか周囲が自分の都合のいいようになっていき、その結果望む”幸せ”を手に入れます。彼女はこの映画を通して全く成長してないですよね。
ゾーイから感じられる不快さが作品を通して納得へと変わり、昇華されカタルシスを生むようになっていないために、映画が終わるまでずっとその不快さが持続して非常に苦しく感じました。

カズの妹ジャミラ周りの話ですが、保守的な価値観から脱却し自身の主義を通すために苦しみながらも犠牲を払ったジャミラを描くこと自体は、保守的な価値観にとらわれているカズやマイム―ナとの対比になり、非常に良いと思ったのですが、マイム―ナの顛末といい、カズの最後の選択といい、この対比を大いに崩すような結果になっている上に、なぜかジャミラよりも家族に頑張って従おうとしたカズの方が”オトナ”であるかのような描き方をしており、非常に不快でした。ジャミラの苦しみや決断はそれ相応の覚悟があってこそな一方で、風習に流され(流されること自体は悪ではないですが)結婚までしたのにも関わらず、それを不意にしてまで自分の欲求に従うカズやマイム―ナの覚悟のなさ、人間としての未熟さがより際立ちました。

恋愛・結婚、というものについても、「しなきゃいけないこと?しなくても幸せに生きていける」ということにも触れるのかと思いきや、結婚や恋愛といったものをしなければいけないこと、いずれは誰しもするべきものであるかのような印象を受けてしまい、それは言いすぎなんじゃないか、と思わざるを得ませんでした。何かしらの「恋愛というもの、結婚というものはしなくても…」ということへの回答をしてほしかったです。

最後に、「ムスリムの旧い価値観を啓蒙してあげるぞ」みたいなフェアではない目線で描きながらも、家族愛のようなもので全体を包みいかにも良いテーマであるかのように見せている感じが非常に気持ち悪く感じてしまいました。
カズとマイム―ナが離婚してそれぞれの思い人とくっつくハッピーエンドにせずに、家族を大事にする保守的な考えにしっかりとのっかったうえで”演技”し続けながら「好意に落ち、愛を育む」、そういった形の結婚もまた肯定しても良かったのではないでしょうか。
現代“風”でありながらもめちゃくちゃ古典的な考えで、また“人種や宗教の垣根を超えた平等性について語ってる”風でありながらも差別的な目線でしかない、あらゆることを表層的になぞるだけで、何も深く掘り下げない、この映画をどうしても好きになれません。
うーたん

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