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FLY!/フライ!のたのネタバレレビュー・内容・結末

FLY!/フライ!(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

【あらすじ】アメリカ・ニューイングランドの池で暮らすカモの親子たち。兄ダックス妹グウェンと母パムは森を出た外の世界に興味を持っているけれども、父マックは外の世界は危険がいっぱいだと頑なに言い張り、家族は渡り鳥なのに一度も移動したことがなかった。そんな矢先、マックは叔父のダンおじさんの「ずっと外に出ずに池に居続けると一生ひとりぼっちだ」という言葉を聞くと手のひらを返すように家族に「旅に出かけるぞ」と声をかけて池を飛び立つ。目的地のジャマイカまで距離3000km。その長旅のなかでマックたち家族は憧れの外の世界や他の鳥たちとの出会い、そして大きな困難をきっかけに互いに成長し家族の絆をより深めていく。
【感想】全体を通してマックたち家族の姿から「失敗を恐れずに一歩踏み出して飛び立つ」というメッセージがド直球に伝わる。このメッセージをを軸にさまざまなテーマを83分と短い時間のなかにいくつも織り込んだ子どもにも大人にも響く良質な作品であった。
そのなかでも個人的に良かったと感じたシーンがある。それはニューヨークで出会った野良のハト集団を率いるチャンプの「私たちでも傷つく言葉がある」というセリフ。これは出会い頭でマックにゴミだの罵られたことに対する返答である。マックのこのセリフからは人間社会における人を人とも見ない非人道的な差別にあたる言動といえるだろう。たしかにゴミ箱を漁り、みすぼらしい恰好は不潔である。だとしても人(この場合は鳥)としての尊厳は守られるべきであろう。無意識に差別するおそれが誰にでもある。このシーンはまさに現代社会の課題を浮き彫りにした、欠かせないものであると感じた。他にも、家族一行が立ち寄ったアヒルの家が実はアヒルたちにストレスを与えることがないよう人間が設備を整えた農園で、一気に天国から地獄に落とされるシーンも現代社会を風刺しているようで面白い場面であった。
積極的に池に閉じこもることを選んだマックと人の手によって強制的にかごの中に閉じ込められたオウムのデルロイの対比も面白かった。マックはデルロイと出会うことで、これまでの自分の状況を客観的に見て、生きている実感とは自分の手で自由につかみ取ることで味わえると気づくことができた。登場人物の設定も魅力の一つであった。
実際にカモの動きを観察したことによる跳ぶシーンの迫力ある映像や随所に挟まれるギャグの数々、状況に相応しい歌たち、誰もが笑えて笑顔になれる要素がたっぷり詰まっている。さらに大人だからこそ考えさせられるテーマもしっかり下地になっている。子どものときと大人になったときとで捉え方が変わるような名作であった。できるなら記憶を消して子どもの感覚でこの映画を見てみたかった。
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