Hara

花腐しのHaraのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
4.1
20代
脚本家を目指しながらも挫折から立ち直ろうとしない、怠惰だけど調子だけはいい小関と暮らす。
辛い事があっても若さと希望に満ちていた。
最後にセックスをして別れるって若くなきゃ出来ないかと。

30代
映画監督でありながら新作は撮れず焦燥感を募らせ、何もしてやれない自分にも苛立つ栩谷と暮らす。
現実と直面しながらどうしていいか分からない。
最後「疲れちゃった」と家を出る。

そんな翔子を演じたさとうほなみ。
正直そんなに期待してしなかったが20代、30代それぞれ期待以上の表現力、存在感でびっくりした。

20代の笑顔。
30代の優しさ。

栩谷、小関が二人して「いい女だった」と思い出す女性を体現していた。

そしてその男二人は自分中心で翔子の心に寄り添おうとしなかった。

たぶん映画監督としての夢は破れ翔子を当て書きしたシナリオもただの紙切れとなった桑山。
だけどずっと自分だけを見ていてくれた桑山。
そんな桑山と翔子は心中する。

小関の部屋と韓国バーでの延々と続くが決して退屈する事ない会話。
翔子の思い出話し。
綾野剛の佇まいがなんともいい。
後悔とやり場のない感情。
丸めた背中とボソボソした話し声。

小物としての酒とタバコ。
韓国では焼酎に千切り胡瓜をぶっ込むなんて初めて知った。
そしてその胡瓜もムシャムシャ。
栩谷がいつも数本しか入っていなさそうなくしゃくしゃのタバコしか持ってないのが似合っているようで、だけど何か気になった。
なぜ降ろしたてのタバコの場面がない。

終盤、栩谷と女子留学生との絡み。
恐らくマジックマッシュルームのバッドトリップ。
絡みはちょっと長過ぎの感ありだが、そこから醒めてからはエンドロールも含めグッと来た。

翔子はやっぱりどこまでも優しかった。

「さよならの向こう側」をはじめとした音楽も良かった。
マイクを握った栩谷。
桑山の様に歌ってる翔子を正面から見つめたりは出来ないけど俺は翔子の事を誰よりも想っている。
だけどその歌詞が結局その後の二人を象徴する。

「はなくさし」って何だ?
などと思っていたくらい原作知らず。
「はなくたし」
白くて可憐なウヅキの花を腐らせてしまう様な今で言う梅雨時の長雨の事だそうで。

そして劇中で井関が話す万葉集の句。

「春されば 卯の花腐し 我が越えし 妹が垣間は 荒れにけるかも」

今はもう翔子はいない。

その切なさに辛くなる。
Hara

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