rio0523

首のrio0523のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.3
北野武監督らしい殺伐とした舞台の中で刹那的に生きる者達の物語。
今作、過去作と比べても特に残虐描写が強い印象を受ける。タイトル通り首を取ろうとする物語で、首を切って掲げる幾つかのカットは大変印象深かった。映画内、天下をとる、成り上がることとは首をとるという行為自体になっている。秀吉や光秀が見た天下は信長が、ありのままに人を操り欲の吐口にする天下であり天下になるには首をとればよい。この結果にも過程にも仁義も情も何もない。ただ、「首」を取りたい「首」を取れればなんでもいい者たちの刹那的な物語、故に恋愛感情は当然のように切り捨てられる。また、故にラスト秀吉自身「首」がどれか分からない、それは「首」とは天下とは一体何かわかっていない、ただ殺し殺し合い欲を満たしている状況に秀吉が溺れてしまっている。物語が終わった後も続く秀吉もまた決して満たされることなく戦を続けて凄惨な生を送ることを示唆している。終わることのない殺し合いに身を投じる秀吉の物語は悲劇的に捉えることもできる点で北野武味を感じた。(多くの日本人が戦国時代のその辺の歴史をサラッとは知っているだろうから秀吉がこの後どうなるのかも理解している。メタい視点から日本人観客共通の悲壮感がラストにあるのではないか)。

とても面白かったんだけど、ただ、ただ何か足りない映画だった気がする...
北野武らしい強気なジャンプカットや逆に強気にカットせず映画中の時間をそのまま体感させるカットなど、北野武監督作品が保持している独特な映画内の時間感覚が失われていたように感じる(何かこう過去作に比べて映像に自信のなさを感じる)。過去作に比べ説明的なセリフ、カット、演技が増えている。それでつならない!とまでは言わないが、あくまで過去作と比べると他の映画、時代劇に埋もれてしまうような映像演出になってしまいそこだけ少し残念だった。
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