エニグマ

関心領域のエニグマのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.4
映し出される一家団欒の普遍的な日常。ただし隣はアウシュヴィッツ強制収容所。プールで遊ぶ子供達の声に混ざった悲鳴や銃声。彼らはその音を気にすることなく、無関心に生活を送る。不純な性行為を行う父やアウシュヴィッツの隣を離れたくないという母。すぐ側では大量虐殺という歴史に残るほどの凄惨な出来事が起こっているというのに映画では何も起こっていない平凡な日常が描写される。それが一番の恐怖である。
途中挿入された作業場にリンゴを隠す少女のシーンが印象的。監督が取材をする中で出会った実在したポーランド人らしい。サーモグラフィーを用いた撮影で、作中唯一まともに関心を持っていた彼女がより際立って映っていた。
常に引いたカメラワーク、監視カメラのような配置で客観的な撮影。観客は彼らの日常を覗いているような構造であり、決して彼らを肯定的には描かないフラットな作りだった。そして、終盤では観客と彼らの線引きが曖昧になり、こちらを覗いてくる。その時、彼に罪悪感や後悔はあったのかは明確には描かれていないが、完全に無関心でいようとすることは無理なのだと感じる。突如消えた母親も同じかもしれない。
音響の面で言えば、そこまで凄さは感じなかったが、あの不快感は劇場でしか感じられそうにないのも事実。
はっきり言って映画的には全然面白くない。このテーマに対して真摯な内容だと思うし、関心を持たせるという意味では正解だと思う。正直アート性の高いビジュアルのA24映画はタイ・ウェスト作品を例外として自分の肌に合わないものが多く、本作もその類だった。ただ、このテーマの本作をつまらないと切り捨ててしまう行為こそ無関心だと刺してくるという、観客を関心領域へ引きずり込むような映画であった。
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