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瞳をとじてのrio0523のレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.6
過去、その時抱いた「心」を分かち合ったものたちが失われていく。ミゲルと会話を交わす登場人物はミゲルと共有できる「心」が想起させる過去の出来事の話をしている。被写界深度が浅い、ミディアムクローズアップ、長回しで映される表情、相手を見つめながら楽しそうに語り合う。そこは今流れている時間の流れから隔絶された、話している彼らだけの時間が流れている。彼らの話す内容が実際に像として映し出されることはないが、観客に強く印象付けられた彼らの眼差しの中にその風景は確かに見えているようだ。
バスに乗って自分の家に戻るミゲル、客は皆目の前の画面を眺めている中でミゲルは手元で「ラ・シオタ駅への列車の到着」をパラパラ漫画式でめくる。強制的に進行するバスの中で、時間を強制される映像を皆が眺める中、自身の手でパラパラ漫画の時間を進めていく。まるで納得できない時間の流れに対抗しているようである。
フリオがなぜ記憶を無くしたか定かではないが、映画はフリオが失踪した時の「心」を想起させるだけの力があったが故にそっと目を閉じた。『別れのまなざし』は冒頭と終わりしかないが、その間とはこの映画を観ている登場人物達であり、ここで映画はただデジタル化された情報の羅列ではなく、相対的な「心」を想起している。フリオにとってこれは自分を失うほどの「心」だった。
あの映画内に出てくる写真の女性にきっと何かしらのヒントがあり、しっかり紐解いていけば何かしらの解答が出そうであるが、それはそれで野暮な気もする。
映画の力をどこまでも信じているようなそんな映画でした。とても良かったです
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