脳内金魚

アース・ママの脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

アース・ママ(2023年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

施設にいる子供はもとより、お腹にいる子供も愛しているのに、自立がままならない。自活をしろ、面談には遅れるな、収入を増やせ、講習には行け。そうでなければ、子供を取り戻すことは出来ない。面接官の言うことは正論だ。だが、講習に行けば、仕事のシフトは増やせない。シフトを増やせなければ、収入も増えず、裁判所を納得させるような住環境を得られない。決して施設の面接官は、理不尽にジアを罵っているわけではないが、彼女の事情を汲んで寄り添ってくれるわけでもない。講習(母親学級と依存症の互助会のあわさったようなもの?)だって、自省の場にはなっても根本的な解決には至らない。あくまで精神論でしかない。セーフティネットが全くないわけではない。けれど、形骸化してしまって、一体誰のためのものなのかと終始もどかしさを覚える。

断片的に提示される話から、ジアは日本で言う高校生(現在24歳なのと子供の見た目から)のときに妊娠し、中退をしている。子供は二人で、シングルマザー、家族の援助は望めないようだ。講習では避妊具が配られたり、講師から「あなたたちはそれ以上妊娠してはダメ」と言われる。それを友人は笑ったりしている。でも、ここにいる彼女たちは正に「貧乏人の子沢山」であり、それは知識の欠如からなのだ。ジアなんて、プリペイド式携帯電話の支払いさえままならず、二人の子供が養護施設にいる。それなのに三人目を妊娠しているのだから、端から見れば「何を考えているんだ」と謗りを受けても仕方がない状況だ。そんな自分の状況に、ジアは三子を養子に出すことを考え始める。講師に見せてもらった養子先のリストは一見すると白人ばかりにみえた。そのなかにいた黒人家族と面談することに決める。聞けば、相手家族も大学生時代に妊娠するが、彼らは家族や周囲の援助に恵まれ、中退せずに出産している。同じ黒人、学生時代の妊娠なのに、これだけ結果が違う。ジアと彼らの違いはなんだろうか?貧富?教育?人脈?ジアは決してスラムのような環境にいたわけではない。高校に行き、そこではバスケに打ち込む普通のティーンだった。それが、妊娠したことで坂道を転がるように転落人生を歩むことになる。ジアが子供を愛し、子供もジアに懐いているだけにやるせない気持ちになった。

結局、ジアは出産直前に薬に手を出したことが尿検査で発覚する。妊婦が違法薬物に手を出すことは、虐待と認定されるそうだ。結果、生まれたばかりの三子は養子に出される。最後、激しい後悔を覚えたジアは、子供たちと暮らしていけるよう裁判所で陳述するシーンが描かれるが、裁定結果は明示されない。

正直何がテーマなのかが曖昧で、漫然としている。アメリカの保険制度やセーフティーネットの穴か、はたまた貧困や、若年者の妊娠、教育の不備。思い付くのは多々あれど、監督の思い付いたことを散漫に散りばめたような印象で、結局一番伝えたいことはなんなのか、恐らく監督の伝えたいことを詰め込みすぎて、逆に散漫となり訴求性が弱くなってしまった感じだ。ただ、妊娠出産がいかに女性の人生に影響を及ぼすファクターなのか、それは伝わるのではないだろうか。
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