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パッチギ!のSadAhCowのレビュー・感想・評価

パッチギ!(2004年製作の映画)
4.7
2021 年 55 本目 

井筒和幸監督の名を不動のものにした青春映画の傑作。映画としては最高だし、当時の若手俳優たちの本当に瑞々しくてかっこいい姿を拝むことができるのだが、塩谷瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカ、小出恵介……。なんで主要キャストが揃いも揃って残念な感じになってしまったんやろか…。しかしケンコバ、桐谷健太、真木よう子、大友康平、前田吟など、脇役もすんごい豪華である。

京都にある朝鮮人学校の番長格アンソン(高岡蒼佑)、その妹キョンジャ(沢尻エリカ)、キョンジャに恋する日本人の高校生・松山康介(塩谷瞬)の三人を軸に展開される物語。学校の先生が毛沢東語録を振り回しながら説教したり、全共闘の連中がクズ鉄買わされてボラれたり、1960 年代当時の雰囲気が今となっては爆笑。

在日朝鮮(韓国)人でヤンキーで…とくれば、本作の少し前に窪塚洋介主演『GO』(2001 年)が制作されている。こちらも良い作品なのだが、在日の描かれ方や国境に対する考え方は全然違っている。『GO』は言ってみれば「国境より俺の生き方」という感じの映画。なんといっても決め台詞が「俺は朝鮮人でも日本人でもなく、ただの根無し草だ」なわけだし。

窪塚洋介の雰囲気とマッチしていてこれはこれでいいのだが、若さゆえの無知や傲慢が恋愛という個人的事柄に収束されて行く感じもあり、ちょっと乗れない部分も多かった。あと、主人公の強さがもう超人的で、勝てないのは親父だけっておいおい刃牙かよ。そういった点で、現代を描いているはずがちょっとファンタジー的に感じてしまった。

一方で本作は、「国」というものの重さが描かれているという意味ではリアリズム重視の映画でもある。アンソンの悪友であるチェドキが不幸な事故でなくなったとき、松本はその通夜に赴く。しかしそこで葬儀に列席していたチェドキの叔父(笹野高史)から「帰れ!」と一喝され、在日朝鮮人たちが日本で受けてきた屈辱的な扱いについて聞かされることとなる。

考えてみれば、日本のガキンチョにそんなこと言ってなじってもどうしようもないし、チェドキが死んだことと何の関係もないんだけど、歴史が絡むとそんなこと言ってられない。ただ、最後はアンソンの子供が生まれるというシーンで未来に希望を託すあたり、まだ救いがあると言えるのかな。現代の日韓関係のあまりにも残念なあり方を知っている者としてはかなり複雑な気分ではあるが…。歴史認識を政治化するとロクなことにならないのは、それこそ歴史が教えているとおり。

とんでもない方向に話がそれてしまったが、映画として傑作なのは間違いない。必見です。
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